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学修成果の可視化と活用事例 vol.4

学生の主観データと外部アセスメントの客観データ、
教員のデータにより学部改革について議論、
「キャリアに強い文学部」へ進化を図る

京都橘大学
本部所在地京都府京都市
学生数5,891名(2022年5月1日現在)
インタビュイー
京都橘大学
文学部 学部長 教授
有坂 道子

2022/06/10

主観的な視点だけではなく、客観的な評価を取り入れたい

本学では2015年に「京都橘学園マスタープラン」を策定し、大学のミッションを明確にしました。そのミッションの一つが、「教学理念に基づく質の高い教育を展開し、教育によって評価される学園となる」ことです。このミッションを達成するため、さまざまな教育改革を行ってきました。
本学の文学部の学生は、まじめでおとなしいという特徴があります。学生たちは文学部の専門教育に対する評価が高い一方、自己評価は低い。そんな学生たちに積極性や自己肯定感を持たせたいという思いから、文学部改革の中で社会人基礎力を高めることが重要テーマとなりました。そこから、教員がそれぞれグループワークを積極的に授業に取り入れるなどの働きかけをすると共に、大学としてもラーニングコモンズを設置し、学生が自律的に学び合える場と機会を増やしてきました。
また、マスタープラン策定以前からの取組として、学生への授業アンケートは、授業ごとに教育目標を設定し、その目標に対する学生の到達度を測るため、毎学期末に実施しています。また日々の学習活動の取組や成長実感を記録する成長実感レポートも実施しています。教員側も自身の教育や研究活動などにおいて自己点検・評価を実施してきました。そして各学部で自己点検・評価委員会を設置し、学生の視点による評価もあわせて、教育活動の改善に取り組んできたのです。
ですが、これらはあくまでも学生本人の自己評価と教員から見た評価に過ぎません。外部から見た評価も大事ではないかという議論があり、15年に歴史遺産学科に外部アセスメントであるPROGテストを試験的に導入しました。自分たちが感覚的に捉えていた学生像がリテラシーとコンピテンシーのスコアという形で「見える化」されたことに納得感が高く、PROGで学生の変化を見たい、就職支援にも使えるのではないかという期待感もあり、翌16年から全学に導入することになりました。

改革の3本柱の1つ「キャリアゼミ」

PROGテストで分かったことは、文学部ではリテラシーに比べて、コンピテンシーが弱く、リーダーシップを発揮する学生が少ないということでした。まじめでおとなしく、引っ込み思案という教員の主観が、客観的に裏付けられた形です。

この結果と在学生意識調査、就職率の実態などをふまえ、17年度より、「キャリアに強い文学部」への進化を目指す3つの改革プロジェクトを始動させました。「多読百遍~文学部多読プログラム~」「文学部キャリアゼミ」「京都プログラム」です。また、社会で生かせる基礎力を育むため、日々の授業にPBLやアクティブラーニングも多く取り入れています。
特に「文学部キャリアゼミ」は、1回生から3回生に開講される科目で、社会人としての素養や主体的に学ぶ姿勢を身につけることができます。3回生のキャリアゼミには、授業の1コマとしてPROGテストの解説会があります。結果報告書から見える強みや成長度合いの「棚卸し」に加え、就職活動に向けて、自分の力が発揮できた場面、それによってどんな成果が得られたのかなど、自己PR文にまとめます。
授業アンケートを見ると、解説会で自分の強みや成長度合いが言語化されることを学生たちは好意的に捉えており、成長を実感できていることを裏付ける前向きなコメントが非常に多い。おとなしく引っ込み思案という従来の傾向から変化の手応えが感じられます。
学生の成長はPROGテストのスコアにも表れています。文学部では1回生と3回生の前期にPROGテストを実施していますが、1回生時と3回生時を比べると、ほとんどの項目で能力が伸長。社会人基礎力の底上げが確認できています。

従来の取組にPROGの活用を加えて強化

またクラスアドバイザー制度へのPROGの活用も基礎力の底上げにつながっていると考えています。各クラスに1名ずつ、専任教員がクラスアドバイザーとして配置されており、クラス活動を援助するとともに、履修、学習上の相談や助言の役割を担っています。従来は前学期の成績が振るわなかった学生に対しての修学指導がメインでしたが、ここにPROGを活用することで、伸び悩んでいる学生などに対してもその学生の特性をつかんだきめ細かな対応ができるようになりました。

教員の実感値と客観データを総合して、キャリアに強い文学部へ

文学部ではPROGテストの結果から、学科ごとの学生の傾向、年度の傾向を把握し、文学部全体の改革や授業改善に活かす方法を考えるFD学習会を開催しています。他大学(全国基準値)との比較や、1回生から3回生にかけた伸長状況を確認し、更なる教育改善に繋げていこうと取り組んでいます。
また、歴史遺産学科では、学科別のPROG報告会もお願いしています。1回生の報告会は、前年度までの学生との違いや、授業を行っていく上での留意点や改善案を考える場としています。3回生ではデータを使って振り返りながら、学生の成長に効果的な取り組みの洗い出しや、今後に向けた課題解決方法の共有などを行っています。
日々学生と接する教員にとって、自らの感覚的なものに加えて客観的なデータが提供されることにより、学生をよりよく把握して支援できるので効果的ですし、「どんな特徴の学生がいて、どんな指導をすれば良いか」の見通しも立てられます。とはいえ、学生の本質を捉えるためにはPROGテストの結果だけでなく、日頃教員が感じている生の印象も重視し、他のデータとも総合的に鑑み、よりよいキャリア形成支援へとつなげていきたいと思っています。

17年から始まった「キャリアに強い文学部」への改革は、自身を見つめ直し、他者への理解を深め、グループ活動に積極的に取り組んだり、リーダーシップを発揮するなど、学生の成長に寄与しています。今後は、学修成果のデータを教員が授業の中で活用し、学期の初めと終わりに各学生の振り返りを促しつつ、教員から積極的にフィードバックを行うなども検討しており、引き続き、3つの柱を軸に改革を進め、一人ひとりの学生の自立・成長を支援していきたいと思います。

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