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効果的な「卒業生調査」についての「よくあるご質問」

「キャリアの広場LIVE 第3回」実施レポートVol.2

2022/06/30  タグ: ,  

当リアセック「キャリアの広場」編集部では、2022年5月13日、オンラインセミナー「キャリアの広場LIVE 第3回」を実施した。好評を得た第1回・第2回(2020年開催)に続き、Q & A 機能で参加者からの質問を受ける双方向型オンラインセミナー(Zoomウェビナー)として開催し、全国から100名以上のご参加をいただいた。

本セミナーのレポートVol.1では、「キャリアの広場編集部」編集長(リアセックキャリア総合研究所所長)角方正幸による、「卒業生調査」についての講演をレポートした。
引き続きこのVol.2では、この講演についてのご質問にお答えする。当日ZoomウェビナーのQ&A機能でいただき、時間の都合でお答えできなかった質問や、終了後のアンケートでお寄せいただいた質問のうち、とくに興味深いもの、多くのケースで役立つと思われるものについてお答えする。

目的変数設定に関して

Q1回収率もさることながら、分析のための目的変数の設定に苦慮しています。何をもって卒業生が社会で活躍している、と答えるのか。まだまだ学内でも意見が割れているため、これという指標が見いだせていません。

目的変数の設定に苦慮しているようですが、これは最もしっかりと学内で協議すべき内容です。というのも、卒業生調査の目的と深くかかわるからです。卒業生調査の目的は個々の大学により、多少異なることがありますが、大まかにみれば、①卒業後の就業実態と仕事満足度の把握、②卒業後の時点から振り返った大学教育への要望や評価の収集、が狙いです。卒業生調査をスタートさせるにあたっては、調査の主目的=リサーチクエスチョンを明確にしてから調査設計(フレームワーク)、調査項目(内容一覧)、調査票作成(質問紙案)へと順を追って進めることで、質問内容の見落としを防ぐことができます。

さて、何をもって「卒業生が社会で活躍している」とするかですが、今回の『PROG白書2021』の13大学卒業生調査では、「仕事の評価(Q10-5)」「仕事満足度(Q10-6)」の2つを目的変数に設定し、大学教育との関連を試行錯誤しながら関連分析を進めました。在学中の評価であればGPAやその他の客観的データが利用可能ですが、卒業生調査のデータは本人からの自己評価、つまり主観的データにどうしても依存することになります。ただし、社会人の仕事評価については様々な調査研究があり、「現在の職場で評価されているか」という質問紙で回答を得るものは、上司による客観的な仕事評価に近いことがわかっています。
大学によっては「職業人の育成」が教育の主目的ではないこともあります。「人間としての教養」や「リベラルアーツなどの教育」など多様な目的が各大学のDPに言語化されているので、それに基づいて議論し、その大学に相応しい目的変数を設定すべきでしょう。また、一方でユニークな質問紙はそれ自体だけでの解釈にとどまり、他者との比較が出来ないという欠点があります。他大学との比較を考えて、PROG白書で示したような既存の質問紙をそのまま用いることも一案です。これらを踏まえて目的変数を設定し、それを得るための質問紙を検討してください。

母集団の意見反映に関して

Q2卒業生アンケートに回答してくれた卒業生の意見はポジティブ側に偏っていないか、本当に母集団(卒業生全体)の意見を正しく表現できているのか疑問を感じることがある。

この質問は卒業生調査の回答結果を読み取るときに最も注意すべき点です。ご指摘の通り、母集団の意見を正しく表現できているかと問われれば、否でしょう。しかし、だから卒業生調査は意味がない、と結論するのは短絡的にすぎます。
現在の調査環境では、個人情報保護法や格差の拡大、単身世帯の増加など様々な要因で、アンケート調査における無作為抽出が実質不可能となっています。大学教員の中には、理想論を振りかざすケースが見られますが、統計学の理論どおりに、サンプルデータで母集団全体を推計する形の調査は困難な時代というのが現実なのです。一方で、ネットやSNSの会員制によるアンケート調査は拡大の一途です。さらに、各種デジタルデータの集積が進み、ビッグデータでの解析が発展しています。私は様々な社会調査を50年以上経験してきましたが、この間の変化は目をみはるばかりです。
このような環境変化の中、アンケートに回答していただいた卒業生の声は貴重な宝です。全体を代表する声ではありませんが、データの読み方、解釈さえ間違わなければ、十分に活用できる宝だと私は考えています。

それでは、『PROG白書2021』の調査結果を解釈するうえで参考にした先行研究や既存データ、さらには今回追加した分析結果などを紹介しながら、アンケート結果の解釈について考えてみましょう。
まず、目的変数の1つである「仕事満足度」について検討します。
大卒3~5年目の仕事満足度について『PROG白書2021』の13大学調査と直接比較できる全国データは存在しません。ただし、それに近いものが、全国約5万人の同一個人の就業実態を毎年追跡調査する「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(リクルートワークス研究所)の中にあります。
仕事満足度を5択で尋ねる設問(ワーディングが少し異なりますが、5択の分類はほぼ同じ)があるので、そのクロス集計表から、25~34歳の正規職員・従業員(3969人)の結果を取り出し、白書のデータと比較したのが図表1です。

この図表で見ると、白書のデータはJPSEDより満足の方へ偏っているようです。満足を合計(「とても」+「やや」)すると白書では59.0%で、JPSEDの36.7%よりも12.3ポイント高くなっています。逆に満足していない計(「あまり」+「まったく」)は白書が約10ポイント低くなっています(白書16.0%、JPSED26.7%)。このことから、おそらく卒業生調査に回答している人は、卒業生全体から見れば現在の仕事への満足度が高い方に偏る傾向があると推測できます。したがって、卒業生全体(母集団)の仕事満足度は、この調査結果よりも低いのではないかと注意して解釈することになります。

次に、『PROG白書2021』の参考に載せた「銘柄大学卒業生調査」との比較から、仕事満足度にどのような傾向があるのかを探ってみましょう。
銘柄大学の卒業生調査は、ネット調査会社に登録されているモニターの中から、条件の大学(銘柄大学)の卒業生(卒業年は白書と同じ)を対象に調査依頼し、回答者が300名に達した段階で調査を終了というもので、白書で行った調査方法とは根本的に異なります。
今回は銘柄大学のうち東京六大学(187名)、旧帝大群(帝大+一橋、東工大)(89名)の回答結果を別途集計してあります。(注)東京大学は両方に含まれるが10人と少ない。
以上を考慮したうえで図表2のデータを見てみましょう。

まず東京六大学と旧帝大群を比較すると、わずかながら旧帝大群の方が仕事満足度が高い傾向があることが見てとれます。
また、銘柄大学の仕事満足度の分布は白書の卒業生調査と同じ傾向で、全国調査のJPSEDよりは満足度が高めに出ていることが分かります。つまり、ネットモニターでアンケートに答える人たちも、全国平均より多少仕事満足度が高めに偏っているようです。これは無作為抽出に近い形で調査しているJPSEDと、回収率が約13%の白書の卒業生調査や、ネットモニター登録者からの回答といった、調査方法の違いが背景にあると考えられます。ですから、あまり回収率が高くない卒業生調査から大学満足度や母校推奨度などの平均値(水準)を推定することは注意が必要です。
しかしここで注意して欲しいのは、この偏りがあるから「回収率10%前後の調査は使えない」のではないことです。これらのバイアスを考慮しながらデータの解釈、分析を進めていけば、データは多くの事実を明らかにしてくれます。例えば、仕事満足度の全体平均値は不確かかもしれませんが、学部別に平均値を比較すると意味ある結果が読み取れるかもしれません。同じバイアスで取集したデータは相互に比較可能です。また、学修経験と仕事満足度の因果関係は調査方法や回収率の影響が少ないことも分かっています。

参考までに「キャリア自律度」についても簡単に紹介しておきます。


白書のキャリア自律度は全国値JPSEDの分布に比べ高い方への偏りが見られ、「仕事満足度」よりもその度合いは一段と大きくなっています。また、六大学、旧帝大群との比較では、わずかではあるが、白書のほうが高い傾向がみられます。

≪参考≫全国就業実態パネル調査(JPSED)
■調査目的
調査前年1年間の個人の就業状態、所得、生活実態などを、毎年追跡して調査を行い、全国の就業・非就業の実態とその変化を明らかにする。
■調査対象
全国15歳以上の男女
■調査時期
毎年1月
■調査手法
インターネットモニター調査。調査会社保有の調査モニターに対して調査を依頼。

出所)ワークス研究所HPより

新たな調査項目の作成に関して

Q3卒業生調査に限らず、満足度調査においても、新たに調査項目を作成していくうえで、いくつかの概念に基づくような(つまり、因子分析をしたときに、いくつかの因子に分かれるような)調査票が理想的なのかどうか、他大学ではどのように考えられているのか、知りたいと思いました。

新たな調査項目や質問紙を作成するときの考え方についての質問と理解し、お答えします。
調査項目の洗い出しは調査目的が明確化した後での重要な作業です。この段階で漏れが出てしまうと、アンケートが終了した後ではもう補うことが出来ません。この段階で、先行研究や類似調査を調べ、参考になりそうな理論や選択肢を書き出しておきます。
調査項目は、それぞれの卒業生調査の目的に照らして取捨選択する必要があります。検討を進め参加者が増えると、あれもこれもとより長大な質問紙が出来てしまいがちです。肝心なのは、そこから最低限必要な調査質問紙にそぎ落とす作業です。ライブ当日にもお話ししたように、質問分量と回収率(あるいは正確性)は反比例するからです。
その際、先行研究で分かっていることがあれば、どの質問紙を残すか、あるいはどのような質問文や選択肢(ワーディング)にすれば良いかの判断が出来ます。アンケートの成否は、この調査項目洗い出しの段階を丁寧に行うか否かにかかっていると思います。

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