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就業力育成における大学間連携のありかた

2012/08/07  タグ:  

角方正幸(リアセックキャリア総合研究所所長/「就業力の広場」責任者)

大学間連携の意義を問う

この広場で行ったアンケート調査「就業力育成の見地から、大学間連携を積極的に進めることに賛成? 反対?」の結果は賛成、反対が同数であった。意見が2つに割れたわけだが、理由の中にこんなものがあった。

賛成「各大学で輩出したい学生像は様々なので、大学ごとに力を入れて育成する就業力は異なる可能性が高い。大学間連携を積極的に進めることによって、普段接することの無い人や環境と触れることが可能となると思う。そのことによって、結果として学生同士はもちろんのこと、教職員にとっても刺激が増え、視野も広がるのではないか。学生の就業力育成の観点と、教職員の質の向上という意味も含めて、大学間連携は積極的に推進していくと良い」
反対「教育の質保証とは、本来、大学の建学の精神やディプロマポリシーなどに基づいて行われるべきなのに、連携してしまうとぼやけてしまう」

2つの意見はいずれも各大学が有する独自性(建学の理念)を理由としつつ、学生の立場に立っていろいろなタイプの学生(大学)と触れることのメリットをとって「賛成」、大学の教育方針や教育内容からみた連携の困難を指摘して「反対」と、立場が分かれた。これはそもそもの大学間連携の意義を問うものであろう。

個人の研究ネットワークから組織の教育ネットワークへ

ここで、先日文部科学省から公表された「大学間連携共同教育推進事業」の申請内容を見てみたい。
申請にあたっては「分野連携」「地域連携」のいずれかを選択することになっているが、申請件数は「分野連携」77件、「地域連携」76件とほぼ同数であった。それぞれの取組名称・申請大学等を見ると、次のようなことが分かる。
「分野連携」は大多数が都道府県を超えた連携となっている。その内容は課題研究、プログラム開発型で、どこか科研費の申請を思わせるところがある。
「地域連携」はさらに2つのタイプに分けられる。1つは分野による連携が主体で(その意味では「分野連携」を選択していてもおそらく違和感がない)、連携する大学が同一県内など近隣であるもの。もう1つは、地域特有の課題に当該地域内の複数の大学で取り組むものだ。地域活性化などのための人材育成がテーマに含まれる例も多い。
また、数は少ないが「街中をキャンパスとした人間力教育モデルの構築:小樽商大、北星学園大」「美しい山形を活用した『社会人力育成山形講座』の展開:山形大他8校」など、地域そのものを共通のキャンパスとして連携を模索するものがあった。

以上のように見てくると、「大学間連携共同教育推進事業」の趣旨をよりよく体現しているのは、研究課題を連携して開発する・構築する等の取り組みが多い「分野連携」よりも「地域連携」、なかでも地域特有の課題に取り組む第2のタイプではないかと思える。地域産業人材の育成を主眼とする「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」とも通底するものがある。
もとより事業名も「共同研究」ではなく「共同教育」である。研究成果を目指した連携よりは教育成果を目指す連携が求められるのではないか。そのように考えると、就業力育成に向けての大学間連携は、教員(研究者)個人のネットワークをベースにするいわば科研費型の連携から、組織間の連携へと発展する必要がある。

大学組織のマネジメント力が問われている

しかしながら、この組織間の連携が、大学という「組織」では最も難しいのが現実だ。アンケートの回答にも、この点に触れるものがあった。

反対「大学の実態を見る限り、大学間連携の前にまず大学内の連携に取り組むことの方が優先順位が高いと思う。大学経営陣-教員間、学部間、教員相互、教員-職員間、職員相互(部門間)等々の連携が相当程度進まないことには大学という1つの事業体として他大学と連携するに足るスタンス、方針、組織的な行動が確保できないのではないか」

大学間連携の価値や効果を議論する前に、そもそも大学という「組織」が組織的なのかを疑問視する意見だ。
教職連携や経営と教員の関係、教員相互など、一般企業からみれば大学の意思決定構造は不明確なことが多く、組織として捉えにくい。さらに、学長や学部長の権限やリーダーシップの実効性が不足であるなど、多くの大学はマネジメントに課題を抱えているといえる。
今後大学間連携を進めていこうとする際、この課題が最もハードルが高いのではないだろうか。各大学の経営管理、マネジメントをしっかり整え、組織体としての大学を整備していくことが、有益な大学間連携には不可欠である。

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