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学ぶと働くをつなぐ授業拝見[Clip Number 014]共立女子大学

共立女子大学ビジネス学部ビジネス学科1年次必修科目「リーダーシップ開発入門演習II」

2023/06/07  タグ: ,  

共立女子大学ビジネス学部の1年次後期必修科目「リーダーシップ開発入門演習II」は、「自分らしいリーダーシップ」の確立を目指して体系化されているリーダーシップ開発科目の1つ。5人1組のチームで企業からの課題に取り組むPBL型学修だが、課題解決そのものよりもむしろ、それを通じたリーダーシップの修得を目標としている。

「チームの状態」も目標にするPBL型授業

共立女子大学が2020年4月に開設したビジネス学部は、「リーダーシップ」を重視し、ビジネスの主要分野である経営、マーケティング、経済、会計の4つの主要科目群や、情報・統計、法律、英語科目と並んで「リーダーシップ開発科目」を設定している。そのうち1年次後期必修科目「リーダーシップ開発入門演習II」では、企業から提出される課題に、教員が編成した5人1組のチームで取り組む。1クラス7チーム、1学年5クラスの計35チームが同じ課題への施策提案を行うコンテスト形式で、最終発表で「クライアント賞」「教員賞」などが表彰される。
授業概要をこのようにまとめれば、一般的な企業連携したPBLにも見えるが、科目名が示すとおり、リーダーシップの修得を授業の到達目標としている。目指す「リーダーシップ」は、多くの人がイメージする「トップがフォロワーをぐいぐい引っ張る」ものに限らず、学生一人ひとりの個性に合った「自分らしいリーダーシップ」だ。
新学部開設準備段階の2018年から「共立リーダーシッププログラム」の開発に携わる岩城奈津准教授はこう説明する。「リーダーシップとは、プロジェクトの中で自ら主体的に動き、周囲や他者を支援することであり、そのための態度スキルと表現できます。成果を生み出すために他者にポジティブな影響を与えることは、すべて『リーダーシップ』と考えることができます。ですから、キャリアの中で業種や職種、マネジメント職といった特定の立場を目指すかなどに関係なく、学生全員に身につけてもらいたいのです」。

このPBLの5人チームなら5人全員が「リーダーシップを発揮」することが求められる。積極的に発言して議論をまとめ上げていくリーダーシップももちろんあるが、資料をこつこつ集めて必要なときにすぐに提供する、発言できていないメンバーがいることに気づくなど、さまざまなリーダーシップがありうる。「主体性」や「自律力」に隣接するようなスキルにつながるといえるかもしれない。


2022年度シラバス抜粋

リーダーシップ開発という授業目標を踏まえたとき、最も重要なポイントは「振り返り」だと岩城准教授は言う。「多くのPBLは成果発表して終わりだと思いますが、この科目では、最終発表の後に2回の授業があり、『チームプロセスとリーダーシップ』『個人リーダーシップ』の振り返りにあてます。個人とチームそれぞれの、課題に取り組んだ期間のモチベーション曲線とパフォーマンス曲線を描き、その変化の事象と要因、自分がどのような感情を抱いたかを振り返ります。そして、パフォーマンスやモチベーションが下がったとき、自分はどういうかかわりができるかを考えます」。この「成果を生み出すためのかかわり」こそがリーダーシップであり、「次に向けてのリーダーシップ目標」として言語化される。
最終発表の後だけでなく、「中間振り返り」から毎回の授業での「今日のグループワークの振り返り」まで、授業の随所に組み込まれている「振り返り」では、何ができなかったかの反省だけでなく、「できたこと」の認識に重きを置く。「本当はできているのに『できていなくてごめんなさい』と反省してみせるようなことが意外と多く、『できている』ことをインフレさせず事実そのままに認めることの難しさが表れてきます。有効なのは相互フィードバックで、他者に認めてもらい、それを受け入れることで自分でも認めることができるようになっていきます」(岩城准教授)。

岩城准教授がもう1つ重視しているのが「目標設定・共有」。授業の早い段階で「成果目標」「状態目標」をチームで共有する。「成果目標」は課題解決の目標、「状態目標」は「チームとしてどんな状態になっていたいか」だ。「2つの目標とも、チームにとって最も適切な目標は何か、チームの全員が真剣に考えることが大切です。合意形成の難しさも経験することになり、小さなプロセスを重ねる中で、議論の仕方も身につけていきます。例えば、目指したくない目標だけれど『みんながいいなら、私は我慢する』ということも起きがちですが、我慢したメンバーがチームに対していい貢献ができる可能性は低いでしょう」。
クライアント賞という成果目標に温度差があるなら、「みんながあっと驚く提案」はどうか、というふうに、話し合いを重ねて全員が目指せる目標を設定していく。状態目標も同じで、「悩みを何でも相談できる」「弱ったときに労わりあえる」など、納得のいく「こんな状態になっていたい」を設定する。
「例えば、チーム内が険悪でお互いに『二度と顔も見たくない』となったら、状態目標については失敗で、たとえ成果目標が達成できても、本当に喜ぶことはできないでしょう。その成果は持続可能ではないからです」(岩城准教授)。「成果目標」と「状態目標」を両立させるよう、ここでも振り返りを重ねながら、授業は進められる。


「リーダーシップ開発入門演習II」授業風景


「リーダーシップ開発入門演習II」中間発表

授業のもう1つの特徴が、各クラスに2~4人ずつ配置される先輩学生のLA(ラーニング・アシスタント)だ。授業の進行役をLAが担い、チーム内の困りごとなども、教員ではなくLAが相談を受けることになっている。とはいえLAが問題を「解決してあげる」ことはなく、チーム自身で解決する力を引き出す手助けをするのみだ。教員は、受講生の学びの支援に加えて、LAのスキル(コーチング、ファシリテーションほか)開発やマインド面も含めた成長支援を担う。
この授業においてLAが果たす役割は極めて大きい。「学生の成長をいちばんよく見ていて、いちばん近くでサポートするのがLA。また、実は受講生のほうもLAの成長をとてもよく見ていて、自分も成長していけると自信をもつことができるのです」(岩城准教授)。LAは主に2年生で、1年生がぶつかっている同じ壁に、ほんの1年前にぶつかっている。そのエピソードを話すことなどで、「私も来年はLAとして活躍できる」という身近なロールモデルになるという。また、LAのリーダーシップがそれぞれ違っている姿を目の当たりにすることが、「自分が発揮できるリーダーシップ」を探究し高めていこうという意欲にもつながっている。

科目同士のつながりの中で体系的にリーダーシップを学ぶ仕掛け

ビジネス学部のリーダーシップ開発科目は、1・2年次必修に3科目6単位、2年次以降の選択科目に5科目10単位ある。ここで取り上げている「リーダーシップ開発入門演習II」は、必修3科目のうち2番目に履修する科目だ。1年次前期、最初に履修する「リーダーシップ開発入門演習I」では、リーダーシップの発揮に必要な基礎スキル開発を行い、学んだスキルを後期「入門演習II」のPBLで実践、続く2年次前期の「リーダーシップ開発基礎演習」でもう一度PBL、という構成になっている。
「リーダーシップは他者への働きかけですから、コミュニケーションスキルが必要です。そのため『入門演習I』ではまず、聞く力・肯定する力・質問する力・感情をコントロールする力などを身につけます。さらに、自分らしいリーダーシップの探究に不可欠な『自己理解』、課題解決に必要な『論理思考』も学びます」(岩城准教授)。
3つの必修科目ではいずれもLAが授業をサポートするが、このLA活動自体もリーダーシップ開発プログラムの一環で、授業科目となっている。例えば「リーダーシップ開発入門演習Ⅱ」のLA活動は、2年次後期の選択科目「ファシリテーション基礎演習B」として実施されている。同様に、1年次前期必修の「リーダーシップ開発入門演習I」のLAは2年次前期の選択科目「ファシリテーション基礎演習A」、2年次前期必修の「リーダーシップ開発基礎演習」のLAは3年次からの選択科目「チームコーチング基礎演習A」というふうに、下級生の授業サポートを通じて上級生のLA自身も学びを深める仕掛けになっている。
必修のために「やらされ感」を抱く学生への対応などの課題もあるものの、LAのサポートを受けて成長した学生が次年度にはLAになり、後輩の成長を手助けしながら自身も成長していくという、非常によい循環ができているようだ。

実は「入門演習I」「入門演習II」のつながりに関しては試行錯誤があった。2018年度(1期目)は前期にPBL、後期にPBLの体験を振り返ってスキル開発、という順だったが、「人と一緒に成果を目指して活動することにあまりにも慣れていない学生たちが、前期のPBLを終えた時点で振り返りをする気にならないほど疲れてしまった」と岩城准教授は苦笑する。ポイントとなる振り返りが十分にできないのでは、学習効果は期待できない。
例えば相互フィードバック(渡す・受け取る)はよい振り返りに不可欠のスキルだが、1年前期の段階でいずれもバランスよくできる学生は多くない。授業時間内で、あるいは提出課題を通じて練習と失敗を繰り返して少しずつ身につけていかなければならない。
「知識もスキルも不十分なままに課題解決を目指すPBLは、もともと学生にとって負荷が高いものですが、負荷が高ければ高いほど学びも大きいという一般的な仮説が、共立ではさほど機能しませんでした。『分からないけれどやってみよう』というマインドではない学生が多かったようです。できない・分からないという自信のなさが前面に出て、達成感もなくただ疲れるということのほうが多く見られました」。そこで2019年度から、内容はそのままに前期後期を入れ替えて、今の構成が定着した。

その他の工夫として、他大学では1クラス1人であることが多いLAを2人以上とし、LAチームで各クラスを担当する形にしている。「個人での活動よりも難しさは増しますが、チーム活動で葛藤などを乗り越えた経験を踏まえてクラス内の学びの支援を行うことが、LAのスキル開発に有効と考えました。受講生の観点でも、1人の優秀な先輩にとどまらず、多様なロールモデルがクラス内にいることで、自身の成長をイメージしやすいと考えています」(岩城准教授)。

学生の特徴に合わせた最適化で「対自己基礎力」が大きく伸長

ビジネス学部の学生の基礎力(ジェネリックスキル)の1年次(2020年度)から3年次(2022年度)の変化を見てみると、コンピテンシー総合および「対自己基礎力」「対課題基礎力」のPROGスコアに伸びが確認できる。
とくに伸びが大きいのが、「対自己基礎力」のうち「感情制御力」「自信創出力」で、ここには「前期に基礎スキル開発、後期にPBL」という構成がプラスに働いているように見受けられる。「PBLへの助走段階となる前期の授業で、教員やLAがていねいにコミュニケーションをとりながら、後期に役立つコミュニケーションスキル、自己理解、論理思考を得たという成長実感をもつと、少し安心して後期のPBLで自分らしさを出せるようになっていきます」(岩城准教授)。
また「対課題基礎力」、とくに「課題発見力」「実践力」が伸長しているのは、1年後期・2年前期とPBLを2度繰り返していることの効果が大きいと思われる。「全学必修の教養科目として、1年前期に『基礎ゼミナール』、1年後期に『課題解決ワークショップ』があり、これらとリーダーシップ科目との相乗効果の可能性も感じています」(岩城准教授)。
一方、「対人基礎力」は3.8前後と比較的高いレベルにあるものの、ほとんど伸びがなく、むしろわずかに下がっている。これも学生の特徴と関係しているのかもしれない。岩城准教授は「チームの進もうとしている方向が『違う』と思っても、言うと関係性が悪くなると思って黙っている」タイプの学生が少なくないという。そのような学生が、リーダーシップ開発科目を経て「自分なりのリーダーシップを発揮すること」を対人基礎力と捉え直し、その難しさ(と奥深さ)に気づいたためではないかと推測できる。スコアの低下はむしろ「自分らしいリーダーシップ」への理解が進んだ表れなのかもしれない。


新学部だからこそ実現した、必修3科目を含む8科目、2年前期までにPBLを2回、LA活動も授業科目、という体系的なプログラムは、着実に成果を上げていることがPROGスコアからも見てとれる。また、個人個人は多様だがグループになると浮かび上がってくるような、「共立の学生の特徴」に合わせてリーダーシップ教育を最適化してきたことも、ジェネリックスキルの伸長に寄与しているだろう。
ビジネス学部の目指すリーダーシップ開発プログラムは「協働して成果を出そうとするすべての人に求められる力(スキル)」の育成であり、「学ぶと働くをつなぐ」に他ならない。このプログラムでリーダーシップを学んだ卒業生の、社会での活躍に期待したい。

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