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学ぶと働くをつなぐ授業拝見[Clip Number 015]北海道医療大学

北海道医療大学 多職種連携科目「全学連携地域包括ケア実践演習」

2023/07/12  タグ: ,  

北海道医療大学では各学部において多職種連携を学ぶ科目を多数設けてきたが、さらに2022年度、高学年を対象とする全学科目「全学連携地域包括ケア実践演習」を設置した。この科目では、学部・学科混成のグループで大学附属の地域包括ケアセンターの事業所の現場に赴き、利用者と対面し、地域包括ケアの現場における多職種連携を実践的に学ぶ。

在宅ケアの多職種連携を実践的に体験

北海道医療大学は、6学部9学科と歯学部附属歯科衛生士専門学校(3年制)をもつ医療系総合大学で、大学附属の地域包括ケアセンターも運営している。「全学連携地域包括ケア実践演習」では、この特性を生かし、地域包括ケアセンターの「訪問看護」「居宅介護」「在宅歯科」の3事業所に対応する3グループに、専門学校・大学院を含め学生22人、教員約20人が、学部・学科の偏りなく配置された。
例えば「居宅介護」グループの学生は、薬学科、福祉マネジメント学科(看護福祉学部)、作業療法学科(リハビリテーション科学部)、臨床検査学科(医療技術学部)の4学科と歯科衛生士専門学校から計7名。教員は、薬学科、歯学科、福祉マネジメント学科、臨床心理学科(心理科学部)、作業療法学科、臨床検査学科の6学科から計7名だ。このほか、各事業所の専門職スタッフが2名ずつ配置された。また、各事業所のサービスを実際に受けている利用者の協力を得ていることは、この科目ならではの特色だ。

3日間の授業の大まかな流れは、1日目に利用者への質問を考え、2日目に代表学生が利用者の自宅を訪問してインタビュー、3日目にそれをもとに考えた支援内容をまとめて発表するというもの。


心理科学部2022年度シラバス抜粋

1日目午前には、コミュニケーションの円滑な方法について座学の講義を行っている。さらに、クラウド上のホワイトボードなどのITツールで共同作業をする練習をして、利用者へのインタビューをめぐるディスカッションに備えた。


ツールを使う練習をした上で、クラウド上のホワイトボードなどで議論の活性化を図った

また、教員による評価基準のルーブリックも明示した。教員は担当チーム一人ひとりの評価を毎日行い、学生は事前・事後の自己評価シートで、グループワークに関する自分の技能や態度がどのくらい向上したかを可視化する。教員の評価と自己評価を共有・分析し、目的に向かって頑張れば能力が伸びる、と学生自身が実感できる評価モデルを目指した。

2日目の利用者インタビューは、地域包括ケアセンターの専門職1~2名、教員1名と代表学生1名とい
う最小限の構成で訪問。教室にいる学生たちは、オンラインのライブ中継で利用者との会話に加わり、360度VRカメラを活用して床の段差や家具の配置などの居住環境を確認した。


2日目の利用者インタビューは、利用者宅と大学をつないでライブ中継

課題に集中できる環境づくり

医療・看護の現場や高等教育の場において、多職種連携、チーム医療が標榜されているが、現実には十分行われているわけではない。多職種連携の最終的な目標である「患者・利用者の生活の質、社会のケアの質の向上」のためにはまだまだ内容の充実が必要だという。
北海道医療大学の多職種連携教育には、全1年生(800名弱)を対象にした「多職種連携入門」や、他学部の教員による講義科目、一部の学部合同の多職種連携演習などが存在したが、「全学」かつ実践に近い形で行うものはなかった。多職種連携教育の全体像を示した下図でいえば、①②⑤はあったが(③)④が足りなかったというわけだ。高学年の学生が多職種連携をリアルに体験できる機会の創出が必要と考えられ、全学を挙げて取り組むこととなった。


多職種連携教育のカリキュラムと個々の科目の位置づけ
出典:安部博史、矢田浩紀(2015)医療系総合大学における多職種連携教育のあり方に関する考察―北海道医療大学の現状と課題―「北海道医療大学人間基礎科学論集」41号

北海道医療大学は医療系総合大学ではあるが医学部はなく、「多職種連携」の中に医師(医学部生)が含まれない。そのため、参加する多職種(多学科の学生)がフラットな立場で話し合えるメリットがあるという。

実施にあたって意識したのは、課題に集中できる環境をつくることだという。
グループワークにおいて本気での意見交換を妨げるのが、防衛的な態度や、照れ、遠慮、失敗へのおそれなどだ。学生がそれらを払拭せざるをえないように、課題の時間設定を少々短めにして、作業をどんどんと進めてもらうプログラムとした。かなりの集中力でやりとりしていることは、目に見えてわかったという。1日目にコミュニケーション論の講義や共同作業の練習を置いたのは、時間が短くても乱暴なワークにはならない配慮だ。
また、それぞれのステップにおいて、個人作業(言語化)→発表→グループ作業(言語化)→発表と、手順を構造化している。それによって、自分で考え、まとめ、自分の言葉で書いたものや口頭で人前で披露することを何度も繰り返すことになり、防衛的な態度が薄らいでいった。

今回は、コロナ禍がおさまらない中での実施となり、濃厚な対面コミュニケーションが感染のリスクを高めてしまうことを懸念する学生もいた。そのような不安を抱かないように、ソーシャルディスタンスを含む感染予防を責任をもって管理する担当教員と、20分の交代制で教室内の行動を監視する担当者を設定し、ついつい白熱し、忘れがちなソーシャルディスタンスが、確実に保たれるようにした。これもまた演習に集中できる環境を準備する配慮といえる。
ICT機器の活用も感染対策としての意味合いが大きかったが、結果的にそれ以上の効果をもたらしたため、次回以降も活用が検討されている。例えば、通常の実習ではグループの学生全員が揃って訪問できる場所は限られるが、代表学生の訪問+VRカメラ+ライブ中継という形で居宅介護サービス利用者のワンルームの自宅といったリアルな現場での実習ができた。
また、クラウド上のホワイトボードを使ったディスカッションは、従来の対面での話し合いに劣らない密度で議論ができるのか、懸念もあったが、実際には議論は活発になった。自分の意見をまずクラウド上に記述し、お互いにそれを眺めることで意見交換が加速し、リアルタイムで意見を集約していく。司会・書記などの役割が固定されず、手が空いている者が意見を整理していくというアドリブの連携も、有意義な体験になったと言えそうだ。

短期で得られたコンピテンシー伸長

この授業の学修成果を授業前後に実施したPROGテストのスコアで見ると、わずか3日間の集中講義でもコンピテンシーに有意な伸長が確認できた。人数が少ないため参考値とはなるが、大分類の「対課題基礎力」や、小分類の「情報共有」「学習視点・機会による自己変革」の伸長はT検定で1%有意を示している。コンピテンシーはなだらかに伸長するというより、「態度変容が促される体験」を経て、一気に伸びることが推測される。ルーブリックによる教員と学生の自己評価を通し内省を繰り返し、学生の気づきを促したことが「態度変容が促される体験」だろう。


学生アンケートでは、身体的負担が高いという回答はない一方、精神的な負担を感じた学生は多く、その負担を感じた学生ほどPROGスコアが上昇していた。実際、人前での度重なる発表など学生にはかなり負担に感じることもあったようだ。3日間で全体発表までを行うタイトなスケジュールで、適切な負荷を与えることで、成長できることを示していると思う。
意図したとおり、学生の中には大変だったという感想も少なくなかった。しかし、そのような感想で終わるのでなく、頑張ったからこそ成長できたという実感をもってもらうことも教育的な狙いだ。また、この負荷と成長の関係について、講義や、講義後の成績フィードバックで学生に示しているのには、今後の勉強・実習、就職後の頑張りへの自信につなげる意図がある。

リアルな利用者との関わりから、学生のパラダイムが変わったことも成果といえるだろう。
医療分野で一般的な演習法の1つに、患者の情報を紙上に整理した「ペーパーペイシェント(PP)」を用いるものがあるが、この授業では、実際の利用者やその家族と会話するなどの接点をもったことで、それとはまったく違う重みが生まれた。PPでは専攻ごとに「教科書的な正解」があり、専門性によって正解が異なることから対立が生まれがちだが、生身の利用者がいると「利用者の希望」に収束していくという。地域包括ケアセンターの専門職スタッフにとっては「利用者の思い」という収束点に向けてそれぞれの専門性を活かしていくことは当たり前のパラダイムだともいい、在宅ケアの見学でスタッフが利用者との間に築いた関係性を目の当たりにしたことで、「学ぶ」パラダイムから「働く」パラダイムへの変換が起きたともいえそうだ。

キャリア観への好影響にも期待

北海道医療大学の各学科は、国家資格取得者の輩出という使命を負っている。その一方で、試験対策のみに汲々としていては社会に出たときに必要となるコンピテンシーが伸びづらいことを、教員たちは日頃から実感しているという。必修科目が多い国家資格取得課程の中では、3日間という短期でコンピテンシー伸長が期待できることもこのプログラムの大きな意義の一つだろう。
また、この科目で多職種連携の現場を体験してキャリア観が醸成される、すなわち「国家資格を生かしてどんなふうに仕事をするか」が明確になることは、国家試験合格への動機付けともなるだろう。その意味でも、短期的に伸長したコンピテンシーが長期にわたり定着するのかを、継続的に見ていく必要がある。

もう1つの課題は、教員の負担の大きさだ。2023年度から設置する全学委員会「多職種連携教育推進委員会」の委員長を務める和田啓爾副学長は、この選択科目を「出来る限り多くの学生に履修してほしい」と言う。となれば、今回のように「学生とほぼ同数の教員配置」というわけにはいかない。今回参加した教員が実際の経験を通して勘所をつかみ、学生数が増えたとしても対応することのできる自信を得たことで、運営の効率化・簡素化を図っていくことになるだろう。

この科目を含む多職種連携科目全般のコーディネーターは、全学教育推進センターに所属していた1人の教員が行っており、その負担は大きかった。2023年度より、そのような属人的な体制を改め、「多職種連携教育推進委員会」を中心に、全学的な多職種連携教育の在り方の検討、具体的な科目内容の精査、評価方法の吟味、同窓会組織との連携などを図る予定であると、和田副学長は語っている。
また、この授業に参画した教員が各学部の核になり、多職種連携教育のあり方に関する検討が行われ、新たな展開が創出されることも期待されている。

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