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[Vol.6]島根大学における就業力育成の取り組み

現場重視の教育で地域活性化を目指す

2012/07/09  タグ:  

島根大学基礎DATA

本部所在地 島根県松江市
設置形態 国立
学部 法文学部/教育学部/医学部/総合理工学部/生物資源科学部
学生数 5399名(2012年5月1日現在)

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、取り組み事例を紹介していく。

第6回目は、地域からの期待の大きい国立大学の事例として、島根大学を取り上げる。小林祥泰学長と肥後功一副学長(教育・学生担当理事)にお話をうかがった。
社会体験(インターンシップ)という形で地域での学生の活動が浸透していくことが、「運命共同体」である大学にとっても地域にとっても、活性化の要になっている。

島根大学の就業力の現状:課題認識

小林祥泰学長はまず、「社会に貢献する人材を育てることは大学の最も大事なところなので、就業力が大事なのももちろん当然のこと」という認識を示す。しかしこれはあくまで一般論。島根県唯一の国立大学としての役割を考えれば、「島根大学の就業力」が、都会に出て大手の企業から内定を取るという意味でないことは明らかだ。
いま地方にとって最も深刻な問題の一つが人口の減少だ。島根県の場合、平均して毎年5000人の減少という。そんな地にあって、島根大学が毎年千人強の新入生を、しかもその7割を県外から迎えることには重要な意味がある。
もちろん流入数の問題だけでなく、その学生たちが地域を支える人材として成長し定着することが期待されている。大手に就職する卒業生もいていいが、地元の中小企業で、面白い取り組みをしているところ、アジアなど海外に進出して成長しているところなどに人材を送り、そこで活躍してもらう。それが島根大学の就業力のゴールイメージだ。
「地域というのは、とにかく人です。産学連携も活性化も、とにかく人から始まる。活性化すればまた人が集まってさらなる活性化の基盤になるといういい循環が、地域に生まれるのです」(小林学長)

1.社会力と応用力

小林学長が島根大学の人材育成目標として掲げるのは、「社会力」と「応用力」だ。
「社会力(人間力)」涵養を目標に、今年の10月頃から試行し、来年度から正式に導入する予定なのが、行政や企業の協力を得て現場での体験をする「社会体験学修」だ。毎週1日・3カ月間通う形を標準とし、約12日・90時間ほどのボリュームになるので、かなりコミュニケーション力が付くだろうと期待する。
「例えば中小企業の社長さんを呼んできて大学で講義をしていただくのではなく、学生のほうがその企業に3カ月通う。3カ月の間に社長さんと一対一で話すことが1回でも2回でもあれば、まして酒でも飲むことがあれば、講義では絶対聞けない話があって、大学の中にだけいるのとは全然違うと思うんです。そういう、本当の意味の人間の付き合いを通じて人間力を培ってほしいと思います」(小林学長)
今秋の試行では約100人規模を予定しているが、次第に拡大して、最終的には対象となる学生700人ほどが全員体験できるようにしたいという。
「地域と大学との間の壁が低くなり、もっといろんな面で一緒にできるようになることも期待しています。例えば、地域の現場の中小企業とかに入り込んで初めて見つかるような、本当に地域に根ざした、必要性のある産学連携につなげていけるのではないだろうかと」(小林学長)

「応用力」については、学部の壁を越えた「学際副専攻システム」を導入する構想だ。例えば主専攻として総合理工学部で物質科学科を、副専攻として医学部で健康科学を学び、卒業時に授与する学位記にも主専攻・副専攻が併記される。
「シーズとニーズの関係をもっと幅広く捉える力をつけるのが狙いです。企業は、そういう応用力をもった人材を求めていますから、就業力強化に直結するとも考えられます」(小林学長)

2.先行モデルの実績

実はこれらのプログラムには、それぞれ先行モデルがある。

「学際副専攻システム」は大学院で理工・医連携コースという形で実現しているものだ。学部を越えた組み合わせによって、一つの学部では考えにくかった研究の広がりや成果が出始めているという。また、産官学連携研究推進につながる可能性も見えてきているようだ。

社会力を涵養する「社会体験学修」の先行モデルは2つあり、一つは教育学部の「1000時間体験学修」だ。

島根大学教育学部「1000時間体験学修プログラム」概要

http://www.aces.shimane-u.ac.jp/1000H.html

いわゆる教職実習ではなく、「基礎体験」「学校教育体験」「臨床・カウンセリング体験」の3領域で、4年間で合計1000時間の学外体験学修を卒業要件とするプログラムで、いわば非常に充実したインターンシップだが、これが目覚しい成果をあげているのだ。2004年度には全国の国立の教員養成学部の中で最下位だった教員就職率が、2011年度には全国7位へと躍進した。

「1000時間体験がすべてとは言いませんが、非常に大きな役割を果たしています。地域でのこの活動が浸透してきたことによって、地域社会の教育委員会等が、地域で力をつけている島根大学の学生を取りたいという傾向が非常に強くなってきた。しかも単なる経験ではなく、卒業の要件にして、ある程度必修化しているということの効果を、市民社会が評価してくださっていることが大きいかなと思っております」(肥後功一副学長)

もう一つの先行モデルは医学部だ。医学科・看護学科ともに臨床実習に僻地医療研修を組み込んでおり、全員が3週間の僻地派遣を体験する。2011年度まで付属病院長を務めた小林学長は、この取り組みを間近に見てきた。
「卒業するところまで6年間を見て、教育効果を実感しています。こういう体験をした学生は、地域医療に対しての気持ちがまったく違いますね」(小林学長)

3.インターンシップの課題

教育学部、医学部のそれぞれで成果を確認できた「社会体験」を全学部に展開するにあたっての課題を尋ねた。
「両学部の実績もあり、就業力育成支援事業に採択されて総合理工学部や生物資源学部でもいろいろな検討をしてきたという積み重ねもあって、総論では大きな問題はなさそうです。各論で問題になるのは、手間がかかるということと、責任の所在ですね」(小林学長)
教員に負担をかけずに各学部の特性に合わせた運用ができるよう、コーディネーターを学部ごとに配置する。加えて、全学的な情報化への取り組みの一環として、社会体験学修用のデータベースを構築し、コーディネーターを支援するマッチングシステムを導入する予定という。
「責任問題については、ちゃんと保険をかけるというようなテクニカルなことを一つ一つクリアしつつ、もしも問題があったときは、学部の担当の先生でなくて、すべて学長の私が責任を取る体制を明確にします。学部単位でなく大学として実施する以上、それは大事なことではないかと思います」(小林学長)

4. 地方大学の使命

地方の大学には、地方に立地しているゆえに不利な点が多々ある。しかし、そればかりでもない。大学と地域とが運命共同体的に期待しあい、支えあう。その支えの強さは東京などにはないものだという。続けて小林学長は、不利な点ばかりが目に入るのは、すべての大学が「ミニ東大」を目指そうとしてきたからではないかとも言う。
「島根大学がいきなり東大と同じように国際競争力とか言ったって、できるものではない。これは国家戦略としてそれぞれそういうふうに作られてきているわけですから。われわれはわれわれの使命をちゃんと果たせばいいとある程度割り切って、この大学はどういう人材を育てるか、その目標をちゃんと見据えていきたいですね。
ではその目標とは何かというと、日本の全体を支える、80%から90%の、中小企業の一番大事なところに、しっかりした人を作ることです。その部分が伸びて、全体が元気にならないと、日本の国力というのは上がらんわけですから」

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