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[Vol.7]小樽商科大学における就業力育成の取り組み

地域を軸に高校/大学/企業をつなぐ

2012/09/05  タグ:  

小樽商科大学基礎DATA

本部所在地 北海道小樽市
設置形態 国立
学部 商学部
学生数 2322名(2012年5月1日現在)
就職率 97.2%(2011年度)

小樽商科大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。

第7回目は、「地域との協働による実践的キャリア教育」に意欲的に取り組む小樽商科大学を取り上げる。山本真樹夫学長と大津晶准教授(商学部/教育開発センターキャリア教育開発部門)にお話をうかがった。
地域というフィールドで学生を育てるために、大学と学生が市民との「協働」で地域の課題に取り組む枠組みづくりに腐心している。

小樽商科大学の就業力の現状:課題認識

小樽商科大学の就職実績は、1911年に小樽高等商業学校として開校以来100年の歴史に支えられている。
「先輩たちの実績と幅広いネットワークはあるし、非常に強力な同窓会の協力も得られる。ですから、就職面で深刻な課題を抱えていたわけではありません」と山本真樹夫学長は言う。

2008年度の経済産業省『体系的な社会人基礎力育成・評価システム構築事業』や2010年度の文部科学省『大学生の就業力育成支援事業』に申請したのは、「実学・語学・品格の育成」という建学時代からの教育理念と伝統にかなうからだったという。いずれも採択されたが、大津晶准教授は、「本質的には本学が何十年も前から行ってきた実践教育のDNAそのものの内容」と言う。というのも、例えば戦前、学内に石鹸工場があり、原料の仕入れから生産管理、市内での販売までを授業の一環として学生が行っていたという。学生が町に出て学ぶ伝統があったのだ。

1.地域連携キャリア開発

この実践教育をPBL(Project/Problem Based Learning)の形で本格導入したのが「地域連携キャリア開発」だ。「商大生が小樽の活性化について本気で考えるプロジェクト」、通称「本気(マジ)プロ」である。5年目の2012年度は73名が15のグループに分かれて「小樽・後志の地産地消の推進」「デジタルサイネージを活用した地域情報発信」など12の課題に取り組んでいる。授業が何コマという概念はなく、導入オリエンテーションの後、学生たちはすぐに町に出る。指導担当者は、グループウエアやSNSを活用して学生のプロジェクトを管理しつつ、学外の連携先と緊密に連絡を取りながら、プロジェクトの目標達成と学生の教育効果の最大化という両立が難しい課題を改善してきた。

小樽商科大はこの科目を、地域というフィールドで学生を育てる「地域インターンシップ」と位置づけている。大津准教授は、企業か地域かという受け入れ先の形態の違いよりも、地域の課題に大学と学生が市民とともに取り組む「協働」の枠組みが、「地域インターンシップ」の特徴だという。
「従来のインターンシップは、この協働という視点が欠けていたように思います。両者が学生は学生の能力という資源をもって、地域は地域の受け皿でもって、協働して課題解決にあたる。共に取り組むパートナーなんですよというのでなければ、持続的でないと思います」

2.10年支援と高大連携

小樽商科大の「キャリアデザイン10年支援プログラム」の大きな特徴は、在学中だけでなく、入学前(高校)3年-大学4年-卒業後3年間のあわせて10年間のキャリア支援を一貫した理念で行う点だ。

小樽商科大学「キャリアデザイン10年支援プログラム」概要

http://www.otaru-uc.ac.jp/info/joho_kokai/gyomu_hyoka/hosoku.pdf

「入口戦略は、大学で何を勉強し、社会にどうかかわっていくかのビジョンをもった学生を本学が求めているということ。いわゆるアドミッションポリシーですね、出口戦略は、社会にどういう人材を供給していくのかという考え方。その両方をきちんと串を通そうということがあります」(大津准教授)

10年支援の入口側へのアプローチの一つが、2006年度から試行されている「世代間交流インターンシップ」だ。小樽商大生と連携校の高校生とが、同じ職場で同じ時期に、いっしょにインターンシップを行う。
「ミソは、大学生がほんの数日早くインターンシップを開始して、擬似的な先輩・後輩、あるいは上司・部下という関係性を作ることなんです。そうすると、3日後に来る高校生たちに対しては君たち大学生がコーチしなければいけない、だから仕事を早く覚えてください、という状況に陥るわけですね。これは大学生にも非常に教育効果が高い。高校生と大学生がお互いに学びながら、高大連携の厚みを大きくしていくという取り組みをしているわけです」(大津准教授)

3.ボトムアップの学内体制

小樽商科大学のキャリア教育プログラムは、入試課、学務課、キャリア支援課の3課が支える形になっている。入口戦略、在学中の教学、出口戦略を通貫した「10年支援」に対応した組織構成ともいえそうだ。
「そういうと完璧にまわっているかのように聞こえてしまうんですが、何であれ新しい教育研究の体制を作ろうとするときには、学内の協力体制が難しいものです。問題は起きて当然という前提で、いかに工夫しながら実践していくか。そういう捉え方がいいと考えています」
問題は起きて当然。そう言う一方で山本学長は、「私自身は、困難というのは特に感じてない」とも言う。
「われわれがこれやってくれということではなくて、先生これやりましょうと言ってきた、下から湧き上がってきた活動でしてね。現場では具体的な困難っていうのは当然、ずいぶん感じているんでしょうけれど……」
現場の大津准教授も、それほど大きな問題は起きていないと言う。
「非常に自由な風土、雰囲気の大学でして、基本的に、自由にやっていることに対してほとんどお咎めを受けない。そういう文化があります」
学長自らがプランを練り、強力なリーダーシップをもってトップダウンで進めることで成果を上げる大学もあるが、そこは大学のカラーというものだろう。

4.地域との協働

大津准教授は、同窓会にも小樽という都市にも、みんなで学生を教育しようという雰囲気と体制があり、恵まれた環境だと言う。しかしまた、一見、地域との協働で学生を育てることは分かりやすいしきれいに見えるが、実際のマネジメントはそう簡単ではないとも言う。
「手段と目的というのが、地域と大学とで入れ替わりやすい。つまり、われわれは学生を育てるために地域の課題に取り組ませたい。目に見える成果が出なくても、学生の意識が変わったから、学生のモチベーションが高まったから、教育効果はあった、と判断するけれども、地域のみなさんは、地域の活性化という観点でもっと成果を出してくれと思う。
こうした食い違いやギャップをいかに埋めていくかが、われわれのコーディネーションと技術でして、これはそう簡単には解決し得ないところがあります」

一方、山本学長は「小樽商大らしい教育手法として良いものができつつあると受け止めていますが、強いて課題をあげるなら、こうやって育てた優秀な学生は、当然企業からも高い評価を得ますので、結果として東京の大手企業に就職し地元に残らないということになりがちです。そのような意味では、もしかすると短期的には地域からの期待に応えられていないかもしれません」というジレンマを指摘した。
例年入学者の約95%が北海道内出身である一方、卒業生の5割から6割は道外に就職する。地元産業界からは本州への人材流出を批判されることもあるという。

「ただ、道外に行くのは決して悪いことじゃないと思います。道外に出て、偉くなって北海道小樽の応援団になってくれればもっと力を持つこともあるでしょう。
地元の人によく話すのが、大学、とくに地方大学というのは、4年間のインターンシップと思ってくれということです。小樽の人と4年間で触れ合っていろんなことを学んだ学生が、いずれ地域を支えてくれる。それぐらいの長期スパンで評価していただくと、地域の人材を流出させていく一方だというような非難は受けなくて済むと思います。北海道ですからシャケに例えて言うんですけれど、小樽の匂いを身にまとった学生はいずれ故郷の川に帰ってくるんじゃないですかと。長い目で見てやっていただきたいんです」(山本学長)

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