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[Vol.9]高知大学における就業力育成の取り組み

特徴的な長期インターンシップ

2013/01/15  タグ:  

高知大学基礎DATA

本部所在地 高知県高知市
設置形態 国立
学部 人文学部/教育学部/理学部/医学部/農学部
学生数 5017名(2012年5月1日現在)
就職率 92.3%(2011年度)

高知大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。

第9回目の今回は、最長6か月に及ぶ長期の「社会協働インターンシップ」の実績を基礎に「地域再生の核となる大学づくり」に向けての改革を進める高知大学を取り上げる。脇口宏学長と副学長の辻田宏教授、総合教育センターキャリア形成支援部門長の池田啓実教授にうかがった。

0.高知大学の就業力の現状:『自律と協働』を地域再生の鍵に

「大学生の就職難や早期離職という社会問題は、大学の危機というより日本の危機であると私は思っています。この危機的な状況に直面して、大学は『最後の砦』、若者を世に送り出す最後の教育機関として、学生がこれまで身につけてきた資質を社会人になる前にどれだけ伸ばしてあげるかに取り組まないといけない」というのが脇口宏学長の基本的な課題認識だ。
辻田宏副学長も、同様に広い視野で問題を捉えている。
「就業力というのを特段意識しているということではなく、企業も含めて日本社会、地域社会で活躍できる、いま時代に必要とされているのはどういう人材なのかということで取り組んでいます。コミュニティでも企業でも行政でも、社会を構成するあらゆる要素の中で活躍できる人材のキーワードとして『自律』と『協働』を考えました。
さらに、『自律と協働』は学生教育の鍵であると同時に地域再生の鍵であると考え、地域の大学として学生と地域の『自律と協働』を一体的に推進することを目指してきました。われわれは地域の教育力をもって学生を育てたいと思っているし、教員だけでなく『学生が』地域に入っていくことが、地域再生につながると考えています」

1.本気の覚悟を育む長期インターンシップ

こうした課題認識の下、文部科学省の現代教育GP採択をきっかけに2004年度に始まったのが「社会協働インターンシップ」、略称CBI(Collaboration Based Internship)だ。その特徴は、低学年次(1年生3月~2年生9月)、最長6か月の長期、地元高知ではなく首都圏で実習、という点だ。
キャリア形成支援部門長の池田啓実教授は「高学年次の、就職前の学生が行く短期インターンシップは、学生にも企業にもメリットがない。それなら低学年次に長期でやればいいということでした」と当初のコンセプトを説明する。高知では学生を長期間受け入れる条件の整った企業が少なく、学外のインターンシップ支援機関を通じて受け入れ先の確保できた首都圏での実施となった。

CBIのプロセスは、1年生2学期の「CBI企画立案」で始まる。この事前学習の大きな目的は「本気」「覚悟」の醸成だという。
「インターンの事前学習に何がいちばん必要なのかを企業に尋ねたところ、異口同音に『本気』と『覚悟』を持ってきていただきたいという答えが返ってきましたので、この点を重視しています」(池田教授)
早ければ1年生の春休みから「CBI実習」に入る。実習期間は日報・出勤簿を作成する他、毎月1回、CBI統括教員が首都圏に出向いての「キャリア開発講座」を受講して振り返りと次月の目標設定を行う。
事後学習としては、2年生9月の集中講義で「CBI自己分析」が開講される。実習全体を振り返ると同時にその後のアクションプランを設定するが、池田教授は、こうした事後学習を通じて学びの質が向上する効果を指摘する。低学年で実施することの大きな意義といえるだろう。
「社会の実践の場に行って観察して、実社会の課題が見えてくると、知識の必要性がよくわかる。目的意識が明確になって大学の授業を受けると、教員の力量はあまり変わらなくても、学生がよりよく吸収してくれる。結果として成績は上がるわけです」

2.CBIの困難とSBIへの発展

CBIの実施にあたっての困難として挙がったのはまず、保護者の理解不足だ。池田教授は「子離れできない親が思ったより多いという実感です」と言う。
第二の困難は教員の中にある根強い「インターンシップ・キャリア教育不要論」だ。「キャリア教育全般について、肯定的な人のほうが圧倒的に少ないのが現実です。ですが、これはどこまで行っても残るもので、あまり気にしてはいません」(池田教授)。

これらの困難を乗り越えながら実績を積んできたCBIは、SBI(Society Based Internship:人間関係形成インターンシップ)という新たなプログラムも生み出した。3週間のインターンシップ実習を中心とする総計180時間のプログラムで、2010年度から実施されている。
「CBIの経験から、長期ではなくても、『本気』で『覚悟』のあるインターンシップなら、学生も成長するし、企業にも社会貢献だけではないメリットが自覚してもらえる仕組みが作れるのではないか、そのほうが実は高知、あるいは全国の似たような環境にある大学や地域においては価値が高いのではと考えるようになりました」(池田教授)

高知大学「社会協働教育」概要

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CBIで関係性を築いた学外のインターンシップ支援機関が内閣府の「地域雇用社会雇用創造事業」を実施するにあたり、その受託研究に高知大学が参加する形で始まったのがSBIだ。その特徴は、「学生は3名1組で実習」「社会人(受け入れ企業)の自律化も大学が支援」という2点だ。
3人1組で企業に出向くのは、「社員対学生が1対1の関係だと、お互いに適当に済ましてしまう」(池田教授)のを避ける工夫だ。3人のチームは小さいとはいえ組織であり、運営するにはそれなりの力量がいる。部下を持ったことのない若手社員にスーパーバイザー(実習支援者)をやらせれば、受け入れ企業には格好の社員育成プログラムとなる。
「高知のような地方都市では、20代後半から30代半ばぐらいでも部下がいない人が多いんです。そういう若手をスーパーバイザーにして、部下を持ったときの振る舞いから始めて、PDCA的な発想、目標設定・目標管理の考え方、そしてもちろんインターンシップのプログラム作成などを、『目標設定塾』と称して日常の業務にも活用できる形で指導します」(池田教授)。実習期間中、2週間目のスーパーバイザーモニタリング、事後には「目標総括塾」が支援策として用意されている。

3.学部化も視野に

高知大学はまた、高知県教委と協力して、高校にも社会協働教育の普及を図ってきた。「本学のプログラムによって、高校生たちの意欲、学力は数段上がったと聞いています。その証拠に、高知市立高知商業高校が2013年度改組で社会協働系のコースを設置することになった。非常に大きな成果だと思います」(脇口学長)。
「大学の地域貢献というと卒業生がどれだけ地元に残るかが評価軸になりがちですが、高卒で地域に残る人たちからSBIのスーパーバイザーになる若手社会人まで、15歳から35歳ぐらいまでの横断的な人材育成機能のハブになると考えると、大学の教育機能もそれに対する地域の評価も変わってくると思います」(池田教授)

これら一連の社会協働教育を「協働地域学部」(仮称)として組織化することも検討されている。
「この先進的な教育を全学に広めるとしたら、今までやってきた教員の力だけでは無理。増員して組織化もする必要があります」(脇口学長)
地域との関係においても、学部(または学科)になっていないことで「1回入った地域とコラボレートしていく関係の持続を保証する」ことが難しい現状があるという。
「学生に対しても地域に対しても大学が『責任ある参加』を実現することは、学部を作ってそのカリキュラムの中に地域と連携した実習系授業をしっかり組み込まない限りは絶対不可能なんです」(辻田副学長)
また協働地域学部は、「COC(Center of Community:地域拠点大学)」の中心機能を果たす組織と位置づけることもできる。
「大学は地域にとって何のためにあるのか、なぜ必要なのかということの答えが、『協働実践力を備えた自律型地域人材の育成とそれによる地域再生を一体的に』をきちんとやることの中にあるのではないかと考えています。それが地域で評価されていけば、大学が、小中学校や病院と同じぐらい地域にとって不可欠な存在になっていくのではないでしょうか。協働地域学部の新設構想は、地域から本当に必要とされる大学をどうやって作っていくかという大きなチャレンジでもあると思っています」(辻田副学長)

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