キャリアの広場は、キャリア教育の様々な情報を送り届ける情報メディアサイトです。お気軽にご活用ください。

[Vol.1] 秋田大学における就業力育成の取り組み

就業力育成を大学改革の根幹に据える

2011/09/30  タグ:  

秋田大学基礎DATA

本部所在地 秋田県秋田市
設置形態 国立
学部 教育文化学部/工学資源学部/医学部
学生数 4,510名(2011年5月1日現在)
就職率 95.4%(2010年度。3学部平均)

秋田大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、取り組み事例を紹介していく。

第1回目は、秋田大学である。その取り組みには、国立大学でありながら、就業力育成を教育改革の根幹にすえて進めていこうとする学長の強い意志が感じられる。吉村昇学長と大野勝好学生支援総合センター特任教授にお話をうかがった。

秋田大学の就業力の現状:課題認識

吉村:就職率は高い方ではありますが、この中には非正規の数字も入っています。パートでもいいから就職すればというのは決して正しい見方ではなく、正規雇用の就職率を高めていくべきだと考えています。
秋田大学の学生の特徴として、口下手で、採用してみれば味が出るんですが、面接などではどうしても関東などの学生に負けてしまう。地方の学生に共通のことかもしれませんが、都会の学生さんと一緒になると気後れしてしまうんでしょう。それをどうやって自信を持たせるか。
学部別の課題として、教員養成を核に持つ教育文化学部で、教員として採用される率が非常に低いことがあります。特に昨今の人口減少で、小中学校の統合が進んでいるので、教員の採用数が減少していることが悩みです。

1-1.自己表現に必要な基礎力は、英語力、日本語力、そして自信

吉村:基礎力育成のなかで最も重点を置いているのは、英語力の向上です。グローバル化社会、日本の企業は日本だけで生きていくという時代ではないので、学生には最低限英語の力だけはつけさせたいという気持ちが強くあります。東北地区でのモデル的な少人数英語教育をしたいという教師陣の情熱もありまして、3学部の学生を能力別に30人クラスに分けてやっています。
また、英語の力をつけるというより、度胸づけですが、春休みに4週間ほどの短期の海外研修を始めました。パスポートを持って飛行機に乗って外国に行くだけでいい、それだけでも度胸がつくという意図です。昨年は5カ国、今年は3カ国に、十数名を送りました。
国外に出るのはいやだけれど日本で自分の力を伸ばしていきたいという学生に、自己表現力と度胸をつけてもらうプログラムもあります。地元の「わらび座」という劇団と連携協定を結びました。劇団の本拠地である田沢湖に学生が泊りがけで行って、歌や踊り、あるいは脚本を学ぶとかを通じてコミュニケーション能力を高めていくものです。
最後に日本語教育の向上。もともとの教育文化学部の国文の先生2人に加えて、元新聞記者、テレビ局のアナウンサーなどをお招きして、この4月からユニークな日本語教育をしています。

1-2.大学の歴史と伝統を活用したキャリア形成支援

吉村:こうした基礎的な力を身につけた上で、大学としての個性を持たせることも重視しています。
秋田県は全国学力・学習状況調査で高水準を保ち続けており、義務教育での学力は全国ナンバーワンといっていい。その小中学校の先生を育てているのが本学だということがあります。この事実は活用できる。県内にこだわらず全国から、秋田大学の教育文化学部で学びたいという学生を集めて、教員に育てて地元にお返ししていく。
工学資源学部のほうは、鉱山学部以来の歴史を復活させて、100年の歴史ある鉱山・資源という分野を、秋田大学の強みとしていっそう伸ばしていきます。
日本の中で秋田大学が資源系研究・教育の拠点ということは認知されてきたので、国際的にも拠点化することを目指して、平成21年10月に国際資源学教育研究センターをつくりました。ボツワナ、モンゴル、カザフスタンという資源大国の実習に学生を連れて行くことで、自信をつけさせたいというのもあります。

2.事業の推進体制

就業力育成を推進する全学体制
http://www.akita-u.ac.jp/acep/organization/

吉村:この図では、上から順に「事業構想・企画を立てる」「支援」「実施」とそれぞれの役割を明確にした組織がピラミッド状になっていますが、本当は逆に、指導・助言を受ける学生がいちばん「上」にいて、それぞれの組織が「下」で支えているのです。また、実施する主体は日ごろ学生に向かい合っている先生(教員)であるということ。
「就業力育成本部」はわらび座の方など外部の方にも入っていただいて、大所高所からのご意見をいただくもの。実際の実施は「就業力育成実施委員会」が行います。この委員会は、医学部保健学科を含め全学部が教員をメンバーとして出している全学体制です。
結局は教員の学生に対する愛情ですよね。自分のゼミに来ている学生がちゃんと就職できてほしい。学生の幸せのために、先生も苦労するから職員も汗を流そう。そんな意識を持ってもらえれば、比較的頑張っていけるのではないかと思います。

3.受け身な学生への対応

吉村:各種プログラムを作成しても、学生が主体的に参加しないという問題は、大事ですね。学生に、この就業力育成はなぜするのか等については、まず先生の意識を共有化して、次の段階で学生にPRすることを考えています。
やはり1つの授業(の中)なので、学生自身の中からの盛り上がりを作ってほしい。そうすることによって先生の思いと学生の思いがマッチングする。そうすると授業の高まりが出てくると思うんです。就職ガイダンスと同じような形で就業力育成に関するガイダンスをするとか、学内の学生の情報システムに公開するとか、「就業力分析論」という講義を開講するとか、いろいろ考えています。学生自身からの盛り上がりを作ることです。企業で言えば顧客のニーズを明確にして、それに対してわれわれ大学がどういうサービス・価値を提供するか。そういうスキームを考えています。

4.現状と成果と課題

吉村:就職して3年後にもう一度その卒業生をフォローアップすることは計画しています。事業の成果をはかる意味も含めて、その会社に入って満足いく生活、あるいは収入が得られているか。それと上司からどう思われていて、大学でどういう教育をしたらいいか。追跡調査が必要です。職員に県内の企業を全部回らせて、卒業生がどんな形で頑張っているか、どんな学生が欲しいかといった聞き取りをしています。
就職率、すなわち会社に入るだけのパーセンテージを上げるのは簡単だけれど、会社に入った後、その中で伸びるか伸びないかのほうがポイントです。3年後・5年後、会社の中でどんな存在感を示すかで改めて大学の力量が問われるというのが私の考えです。
この考え方に基づき、就業力育成の成果の指標としては、次のようなものを考えています。ひとつは学生の満足度調査です。社会生活全般における満足度、幸せに生きているか。
社会でどれだけ活躍しているかも、客観的な指標としてあるでしょう。例えば昇進度です。どれだけリーダーシップを発揮して管理職や役員になっているか。
3つめが、雇用される能力。就職率ではなく、就職の質だと考えています。地元企業、優良企業で秋田大学の学生がどれだけシェアを獲得したか。第一希望の企業に就職できたか。正規雇用、直接雇用であるか。また、就職先の企業が、いわゆるエクセレントカンパニーであるか。社員は10人だけれど優れた技術とマネジメントを持っている企業とかですね。
これらの数字を3年後、5年後とフォローしていくことが必要だと考えています。

(了)

コロナ禍対策共有プロジェクト

セミナー・公開研究会情報

近日開催予定のセミナー・公開研究会情報がございません。

学ぶと働くをつなぐキャリア関連ニュースなど、当サイト最新情報を無料のメールマガジンにてご確認いただくことが可能です。



閉じる