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[Vol.2] 成城大学における就業力育成の取り組み

小ささの良さを生かした学園内連携

2011/11/09  タグ:  

成城大学基礎DATA

本部所在地 東京都世田谷区
設置形態 私立
学部 経済学部/文芸学部/法学部/社会イノベーション学部
学生数 5、805名(2011年5月1日現在)
就職率 92.8%(2010年度。4学部平均)

成城大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、取り組み事例を紹介していく。

第2回目は、首都圏の比較的小規模な私立大学の事例として成城大学をとりあげる。2006年度から正課外の独自プログラム「キャリアサポートプログラム・MAP(My Advanced Project)」を実施してきた実績があり、今年度から本格的にスタートした「就業力育成・認定プログラム」は、その経験と実績を踏まえたものとなっている。油井雄二学長と長尾繁樹氏(就業力育成支援室)にお話をうかがった。

成城大学の就業力の現状:課題認識

「人当たりがよく協調性があり、チームの軸として良い雰囲気を作り出していける点は高く評価できる。いま一歩『惜しい』点を指摘するなら、競争に打ち勝っていく力や集団を牽引する力があればさらに活躍できるはず」――成城大学生は産業界からそんなふうに言われることがあるという。協調性・向上心は高評価ながら、リーダーシップが弱点ということらしい。

「成城の学生というのは、仕掛けなんかなくても伸びていくというほど主体的・能動的ではないかもしれませんが、スイッチを押しても動かないほど錆びついた素材ではない。だからわれわれが、手間ひまをかけて適切なスイッチ、起爆剤を用意してやることが必要なんです。1年次から、必修でなく選択で受講する就業力プログラムは、まさにその起爆剤といえます」(油井学長)

1.学生提案型プログラムの実施

大学職員として長年学生の就業・キャリア形成を支援してきた長尾氏は、ある日、当時のキャリア教育に疑問を持つ印象的な場面に遭遇した。
「学生がアセスメントを受けて、『あなたはこうだ』と一方的に解説され、右から左に『はあなるほど』と思って帰ってしまう。『いやそうじゃないんだ』とか『私はもっとこう思っている』とかいうことがなくて、それをそのまま受取ってしまっていいのだろうかという不安感を覚えました」(長尾氏)
提供する大学側も利用する学生側も、一つのツールにすぎないはずのアセスメント結果に一喜一憂して「キャリアプログラム」を終えたつもりになってはいないだろうか。こういった危機感から生まれ、2006年度から実施された「キャリアサポートプログラム・MAP(My Advanced Project)」は、「学生たち自身のディスカッションやワークを通してキャリアを考えていくきっかけを提供する」「あえて答えは提供せず、自分たちで考えて自分たちなりに答えを出す」という方針で構築された。

正課外のMAPに自ら参加するからといって、全員が主体的で積極的な学生というわけではなかったという。「何かをやらなければならないとは思うが、何をしたらいいのかわからないという学生」、「これをやれば就職に何らかのプラスになるのではないかと思う学生も少なからずいた」(長尾氏)ということらしい。
「リーダー格の学生から、なかなか乗ってこないメンバーとどうやって一緒にモチベーションを高めてやっていけるか、苦労したと聞きました。実社会に出たら必ず経験するような苦労で、そういう意味も大きかったという気がしています」(油井学長)

こうした実績は、「学生提案型プログラムの実施」として2010年度からの「就業力育成・認定プログラム」に受け継がれた。例えば、3年次後期の「チャレンジ・プログラム」は、就業力発展科目の総まとめとして、個人またはグループで自ら設定したテーマを研究・実践し、評価委員会に対して発表する科目だ。

2.多角的な連携

成城大学 就業力育成・認定プログラム 5つの特徴
http://www.seijo.ac.jp/files/www.seijo.ac.jp/univ/career/shugyoryoku/index/character.pdf

「学生提案型プログラム」に次いで目を引くのは、「多角的連携による重層的で多様な展開」だ。産業界・地域・卒業生との連携を謳う大学は少なくないが、「学園内各校との連携」は、幼稚園から大学院までの「フルコース」をもつ成城学園ならではといえるだろう。大学4年間だけではなく小中学校・高校とキャリア教育を経る中で就業力が積み上がっていくと考えるとき、この緊密な関係性は非常に意義深い。

「客観的な評価システム」にも「多角的な連携」が生かされる。「チャレンジ・プログラム」の評価委員は、学長以外すべて外部の識者とする予定なのだ。地元自治体の世田谷区、産業界からは人事・採用部門だけでなくいろいろな部門の部長クラス、それに卒業生を合わせて、10名ぐらいの委員会になるイメージという。委員会は学生の就業力を評価し、「就業力ディプロマ」「EMS(Excellently Motivated Student)認定証」「学長賞」を授与して就業力の質保証とする。
「学生の就業力の評価と同時に、このプログラム自体も評価していただき、見直すべきところは見直し、修正していきます」(長尾氏)

3.就業力という方向性は「あえて」言わない教学改革

実は当初、現場の教職員はこの就業力プログラムを新たに企画することに対しては慎重で、必ずしも積極的ではなかったという。すでに5年目を迎えていたMAPに自信をもっており、それとは異なる新たな取り組みを構築することは難しいと感じたからだ。油井学長は「今回はそこを私がトップダウンで突っ走ったところがあるので、まだ先生方のご理解が100%得られているか、若干わからないところがあります」と言う。
そんな経緯もあってか、学内の教員に対して「就業力という方向性でということは、あえて言わない」のだそうだ。大学での専攻や就職先の業種・職種にかかわらず通用する、ものの考え方、情報の取り方、自分の考えをまとめて相手に通じるように話すやり方、などを身につけさせる「方向性」を揃えるのがいいというのが油井学長の考えだ。

「日々の勉強をきちんとやることがベースにあって、その上で自分のキャリア、人生設計に目を向けさせるということが必要になるのですから、通常のもしくは本来の学部学科の科目と、就業力プログラムとが『車の両輪』になってこそ、学生に『真の就業力』がつくと思います。
ですから、就業力プログラムは計画どおり進めつつ、直接関与しない先生方にはそれぞれの授業を通じて『自分の頭で考える癖をつける』教育をしていただき、それが車の両輪として回転していくようにもっていくのが、学長としての課題だと思っています」(油井学長)

4.小ささの良さ

就業力育成は、少人数でのグループワークや個人個人へのカウンセリングなど、非常に手間ひまのかかることが多い。経営的に見れば「手間ひま」は「高コスト」に他ならないという厳しさがある。しかし、油井学長は「これからの教育は『手間ひま』」と言い切る。少人数教育・手間ひまをかけた手づくり教育は、成城学園創設以来の教育理念でもあるが、大学経営が厳しい今でも、あるいは今こそ、「手間ひまかけないと人は育たない」という教育の本質を見直そうというのだ。

「成城は少人数の大学ですから、大規模な学校に比べるとマイナス面もあると思うんですけれど、逆に『小ささの良さ』もある。それを生かしていくとなると、MAPや就業力育成・認定プログラムのような『面倒は見るけれど手は出さない』といった、ものすごい手間ひまかけた教育におのずとなっていきます。
一律でバーンとやってハイ終わりといけば簡単だとは思いますが、おそらくそれでは成城のよさは出てこない。学園全体で手づくり感をいかに醸成していくかというのが、これから大学が生き残る一つの道ではないかと考えています」(油井学長)

5.必修にしない理由

「就業力育成・認定プログラム」を受講している学生は現在160名。1学年約1100名の1割程度でしかない。人数を拡大、あるいは必修化してはどうかという声も学内外からあるが、大幅な人数増は考えておらず、徐々に受講学生を増やしていく方針とのことだ。グループディスカッションなどをファシリテートするにはこの規模が限界というのが主な理由である。また、キャリアを考える時期は個々人で違うので、選択の余地を残すためにも必修にはしないという。
さらに言えば、全員に実施しなくても、また実施した全員に目覚しい成果が出なくてもいいという。
「種みたいな学生が出てくればいいし、現に出てきています。そういう学生がまわりの学生にいい影響を及ぼすんですよ。つくる種の数は少なくても、それを培養して広げていけばいいと考えています」(油井学長)

(了)

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