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[Vol.3] 鹿児島国際大学における就業力育成の取り組み

地元密着で“地産地消”の人材育成

2012/01/05  タグ:  

鹿児島国際大学基礎DATA

本部所在地 鹿児島県鹿児島市
設置形態 私立
学部 経済学部/福祉社会学部/国際文化学部
学生数 3,557名(2011年5月1日現在)
就職率 78.1%(2010年度。3学部平均)

鹿児島国際大学の取り組みのあらましについてはこちら

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、取り組み事例を紹介していく。

第3回目は、地方の文科系私立大学の事例として鹿児島国際大学をとりあげる。入学生の約9割が鹿児島県内の出身者であり、卒業生の75パーセント程度が県内で就職するという、地元密着型の大学での就業力育成のあり方は、どのようなものなのだろうか。瀬地山敏学長と大久保幸夫教授(就業力育成プロジェクト室長、経済学部長)にお話をうかがった。

鹿児島国際大学の就業力の現状:課題認識

「就業率・就職率対策を議論していた際、演習に入っている学生と入っていない学生で就職率は違うのか、という疑問が出ました。しかし、誰もそういうデータを見たことがない。なぜかというと、就業率は進路支援センターに、演習の成績は教務部にデータがあって、お互いを照合できない仕組みだったからです。2つの部局のファイヤーウォールの垣根を除いて見てみたところ、全学にわたって、演習を受けている学生の方が就業率が高いことがわかりました」(瀬地山学長)

今の学生は「1人で閉じこもりがちで、縦横に人とつながる経験が不足している」ことが課題との認識もあると瀬地山学長は言う。
「それをカバーする教育の体系として、フィールドワークを絶対やるべきだと考えました。演習を選び卒業論文を書く前に、野に出ることで心のウォーミングアップをしっかりしてほしいという趣旨でした」

1.本格的な教学改革

鹿児島国際大学「自分の言葉で表現できる学生」の育成 取組概要

http://www.iuk.ac.jp/k-syugyo/about.html

まず、効果が立証された演習(ゼミ)の改革に着手。平成23年度から全学部全学科で演習を履修指定(必修ではないが履修が望ましい)とし、かつ、すべての演習で卒業研究・論文を必須化した。フィールドワークでは、4タイプに大別したうち「免許資格型」を除く「探究型」「協同型」「実務型」について再編が行われた。
これに「オムニバス講義」(キャリアデザイン科目)を加えた3科目(群)の全面的な再編・改革によって、就業力育成への取り組みは本格的な共学改革となった。

2.演習の改革

演習を全学で履修指定にしたことで、演習指導する教員がより多く必要になった。もちろん、単に人数の問題ではなく、演習の内容の改善も求められる。
演習(ゼミ)の運営は各教員に任されており、教員自身の研究に基づいたテーマに、その教員の方法論に沿って学生が取り組むというのが、ほとんどの大学で一般的な光景だろう。鹿児島国際大学でも同様だ。そこで、まずは「他の教員がどんなふうに演習をしているのか」の情報を共有するために、演習を公開してお互い学び合う機会をつくろうとしている。授業科目の公開や討論が行われる場としてあるFD(Faculty Development)の「演習版」というわけだ。

しかし、講義とは違って演習の公開には教員の抵抗感が大きい。そのため、コンペへの応募として公開を促し、いい演習には援助を出す予算化を検討しているそうだ。
「ある専門が設定されている中で、講義ではなくて演習という場で、年配の教師が、若い人たちにどう語りかけて、フィールドワークを含めた形でどういう刺激を与えるかということは、教え方の原点にかかわる、最高のアートだと私は思っています。だから、抵抗感を克服して演習を公開する勇気のある人には、大学の予算で手当が出る仕組みを作るだけの価値があると考えています」(瀬地山学長)

3.実務型フィールドワーク=インターンシップ

フィールドワークでは、国内外でインターンシップを行う「実務型」に特に力を入れた。ここでも教員の協力が求められ、従来は県庁の組織なり、学内の職員なりが開拓してきたインターンシップ先を、全学の教員で確保してくる形が始まっている。

23年度には「3日間社長のカバン持ち」というユニークなインターンシップを実施、地元紙などで報道されて注目を集めた。鹿児島相互信用金庫との産学連携事業で、同金庫の取引先中小企業で3日間、マンツーマンで学生が社長に密着するというものだった。
24年度には中国・大連でのインターンシップも予定されている。学生は挨拶程度の中国語しかできないレベルで就業体験に臨むが、大連は日本語ができる人が多いとのことで踏み切ったという。また、受け入れ先は「社長のカバン持ち」と同じく鹿児島相互信用金庫の取引先なので、鹿児島と縁のある企業という安心感もあった。

こうした地元との取り組みを通じて、学生の中にも「地域に根を張った、中小でも優良な企業」に目を向ける意識が芽生えてきていると、大久保教授は言う。一方、学生を受け入れた企業側からも、「大学卒は採用したことがないが、将来は大学卒を取ろうかと考え直した」という声があがった。地域密着型大学の就業力育成事業として大きな意味があったといえるだろう。

4.教員と職員が協働しないと実らない事業

全学的な教学改革には、当然、全学の教員が本格的にかかわる。しかし、キャリア支援の全体像を見れば、職員の果たす役割も教員のそれに劣らず大きい。
「あえて教職協働ということは言いませんでしたが、このプロジェクトで成果があがったものは、近い将来、全部通常の大学の業務の中に入っていく。そうするとどうしても、それを迎える職員の人たちがこのチームに参加して、企画の段階からよく知っているということが必要です」(瀬地山学長)
この観点から、事務的な全体を統括する「就業力育成プロジェクト室」、事業内容を審議する「就業力育成プロジェクト委員会」は、いずれも教員・職員の合同で編成している。

長らく教員・職員という二分法が支配してきた大学という組織では、就業力育成のような「教員と職員が協働しないと実らない事業」は、今まで誰もしたことがないのだと瀬地山学長は言う。
「ですから、この取り組みを上手く進めて成果をあげていくには、教員にも職員にも、タイミングを心得た理解をお願いする呼びかけを繰り返していく。俺たちに相談しないでやったとか、教員までがそういうことをしなきゃいけないのかとか、心に持っておられるそういう壁を、繰り返し繰り返し、壊してくださいとお願いする。この努力しかないんだろうと思います」(瀬地山学長)

5.人材の「地産地消」と国際化

鹿児島県で一番中国人の留学生が多いのは、国立の鹿児島大学ではなく鹿児島国際大学だという。大学院生も含めて現在約140名いる留学生を「大学にとっても資源」と考え、「中国人留学生の鹿児島でのインターンシップ」を計画中だ。
「本学の学生を大連の企業で受け入れていただくように、留学生たちを鹿児島の企業で受け入れてもらいたい。インターンシップもしくは卒業してからの短期雇用という形でできないか、具体化へのスタートラインに立っているところです」(瀬地山学長)
留学生たちは将来中国となんらかの仕事をするだろう。将来ではなく、頑張れば今できるかもしれない。そういう場面に立ち会うことで、「地元企業の中に今までとは違うビジネスマインドが育ち、何か発展していくなら嬉しいこと」と瀬地山学長は言う。

「本学の卒業生の就職先の分布は、鹿児島が76%台です。鹿児島が疲弊しようと、東京がうんと発展しようと、これは変わらない数値であると直観しています。それを前提にすると、必然的に、できるだけ地域に密着して、地域の企業が盛んになってほしいという願いを持ち、そのためには大学も協力をするという姿勢をとる。
地域に根を張りつつ世界にパートナーを持ち、国際的な取引ができる企業を、いま3社ほど見つけました。そういう企業を掘り起こすことも私の務めだと思います」(瀬地山学長)
鹿児島国際大学が目指すのは、優秀な人材の「地産地消」だが、地元の企業に就職しながら世界を相手に仕事をしていくならば、それは瀬地山学長の言う「地産国際消」に他ならないだろう。

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