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[Vol.20]電気通信大学における就業力育成の取り組み

産業界とのつながりを最大限に活用

2014/11/17  タグ:  

電気通信大学基礎DATA

本部所在地 東京都調布市
設置形態 国立
学部 情報理工学部
学生数 3710名(2014年5月1日現在)
就職率 84.5%(2013年度)

就業力育成は、多くの大学が直面する大きな課題だが、大学によって条件や状況・環境はさまざまであり、具体的な施策もそれぞれ異なるだろう。
このページでは(リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で)各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例などを、積極的に紹介していく。
今回は、2005年という早い時期から産業界とのつながりを生かしたキャリア教育に取り組み、「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」関東・山梨ブロックの幹事校でもある電気通信大学で、福田喬学長にお話をうかがった。

0.電気通信大学の就業力の現状:課題認識

電気通信大学(以下、電通大)がキャリア教育に取り組み始めた2005年当時の課題認識について福田喬学長は、「工学系高等技術者への社会からの要請」をあげる。
「ますます高い知識や技能が求められる『高度知識基盤社会』の中で、工学系高等技術者の育成を考えたときに、今までのいわゆる学問ベース、下から積み上げていくだけの教育ではダメなんじゃないかということがあります。もちろん学問ベースは必要だけれども、社会というものを視野に入れて、自分との関わりをいつも認識しながら、あるいは認識に向けた行動を起こしながら、専門性を上げていく教育にしていくべきではないかと。この課題は今でもそれほど変わっていないと私は思います」

福田学長が憂慮するのは、学生が高校から大学に進むときに起こるべきパラダイム変換が起こっていないことだ。情報の取り入れ方が非常にバーチャルで、ある種、漠とした社会認識の下に学生たちは大学に入って来る。それで専門性を身につけようというのは「ちょっと何かが足りないのではないか」と言う。

そこで、入学後のなるべく早い時期に、将来就業しようとしている産業界の状況を認識しつつ、専門性に入っていくことをキャリア教育の軸に据えた。それによって学生の目的意識も高まり、専門についても「本当の修学」になるのではないかという。

1. 産業界の話を聞き、現場を見る

「2004年に産学官連携センターの竹内利明特任教授と議論をして方向性を作り、翌2005年にキャリア教育をスタートさせました。その頃、理工系のキャリア教育というのは実はあまりモデルがなく、単に社会と接触させればいいというものでもないので、どのような教育体系を作ったらいいのか、非常に悩みました」
最終的に落ち着いたのは、学生に産業界の人の具体的な意見を聞かせることと、早い段階で産業界の現場を見せる事業所見学。これが大きな2つの柱となった。いずれも選択科目として始まり、現在は必修となっている。


http://www.uec.ac.jp/about/publicity/pamphlet/pdf/hikaru_2014.pdf

「人事や経営にある程度の経験を積んだ、トップに近い方にお話しいただく。並行して、本学の卒業生をメインに、現場で活躍している若手の話も聞かせています」
事業所見学は、IT企業のような“単なるオフィス”もあるが、雰囲気だけでも直接感じさせることに意義があるという。またこのときも、若い社員に話を聞く。現場で聞く話はやはり実感が違うだろう。最初の頃は10社前後だった協力企業数は、昨年50社近くと順調に増えている。見学は1カ所とは限らず、だいたい1人の学生が2カ所ぐらいに行くという。
「見学に行くのは1年生で、教員が同行しますが、大変なのですよ、ケアが。見学前には、必ず大学に集合して、服装チェック。スリッパとか破れたジーパンとかで来る学生がいますから。企業の人たちに自分たちが請うて見学させてもらって、そこから学ぼうとする姿勢を、自分自身の態度で表さないといけない。最初はそういう教育から始まるのです」

話は聞きっぱなし、見学は行きっぱなしでは、当然大きな教育効果は得られないので、レポートを書かせるが、そのチェックは教員にとって大きな負担となる。そこで、産業界のOBをメインに、ティーチングアシスタントを広く募集した。
「学生をグループにまとめてやるので、チームティーチングアシスタント、TTAと呼んでいます。現在は60人近くのTTAが、学生と同じ講義を聞いたり、事業所見学に同行したりして、TTA同士でお互いアドバイスやディスカッションをしながら、レポートチェックをしています」

このように電通大のキャリア教育は、産業界の力を借りてスタートした。その経緯や構築されたシステムには、他の大学に比べて産業界OBとの距離が近いことが表れている。「それは本学の有利な点です。もっともっとうまく使わなきゃいけないですね」(福田学長)

2.PBL型の授業の推進

「話を聞く」「現場を見る」の次のキャリア教育として始めたのは、課題の解決に向けて議論し、行動し、学ぶという、PBL(Problem Based Learning)型の授業だ。

3年生の選択科目「エンジニアリングデザイン」は、キャリア教育の一環と位置づけられたPBL授業だが、そこでこんな事例があった。
電通大のキャンパスは、都道をはさんで東と西の2つに分かれていて、交通量の多い都道の横断は、教室移動などで非常に危険なルートになっている。大学は、20年ほど前から信号機の設置を警察署に依頼してきたが、すぐ近くに他の信号機があるなどの理由で設置されないままになっていた。
「それを学生たちがPBLの課題にして、ものすごい調査をしたんですよね。こういう形で信号機が設置されている事例があるとか、こういうところに適したこういうシステムの信号機があるとか。そしてその調査結果を持って警察署にインタビューに行った。そうしたら去年、信号機がついたのです。すごい成果でしょう。こういう行動力が出てきたことは、非常にいいと思うのです」

キャリア教育全体の成果としても、例えば7、8年前には海外インターンシップ生はゼロだったのが、昨年は20数名が行くなど、能動性が出てきたという。

3.専任教員にどう関わってもらうか

キャリア教育を進めるうえでの課題は、「専任教員に関わってもらう環境形成の難しさ」だ。10年かけて、徐々に関与度は上がってきたものの、「導入、途中の教育、最終的な評価まで、すべての階層で専任教員が関与するというシステムまではまだ行っていない」と福田学長は言う。
「この問題点への解決策のひとつがTTAであったと思います。しかし今後もこのままで行っていいのか。本来的には専任教員がそれぞれの専門教育の中で、学生に産業界とのかかわりを考えさせ、自分自身のキャリアを形成しデザインしていく能力を身につけさせなければいけない。それをどう実施していくかが次の課題だと思います」

4.多様な大学が集まる産業界ニーズ事業

電通大は文科省「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」関東・山梨ブロックの幹事校である。14大学からなるこのブロックは、東京・神奈川・栃木・山梨というやや不自然な区割りに加え、工学系単科の電通大もあれば、看護大学も音楽大学もある。「最初、こんなに人材育成目標が異なる大学同士のグループで、キャリア教育という柱を、どこにどのように建てたらいいのか、非常に悩みました」

悩んだ末に、「それぞれの分野に則してスタートとターゲットは違っても、目標に到達するまでの手法、教育方法にはひょっとすると共通するものがあるのではないか」という観点を14大学の共通認識とした。
「例えば本学のTTAの取り組み。あるいは音楽大学で、音楽家、地域の音楽振興に関わる人材などの育成にあたって作り上げている、地域との関わりやインターンシップのシステム。そういった事例をもとに議論をして、『共有できる教育手法』を課題、または成果の一つに置こうということで動かしています」

2014年度には、産業界ニーズ事業に付随する「テーマB:インターンシップ強化等の取組拡大」でも、電通大を幹事校に「広域多摩中小企業インターンシップ推進事業」(関東・山梨ブロックのうち7大学の連携)が採択された。

5.グローバル化とイノベーション

今後の方向性は、「ありきたりの言葉で言ってしまえば、グローバル化とイノベーション」だという。

イノベーティブ人材育成を強く意識したのが、電通大を主幹校に全国7大学が連携した『スーパー連携大学院』というプログラムだ。ヨーロッパで、産学官連携のイノベーティブPh.Dという名称の学位が出てきているのを参考にしているという。
「学部レベルへの適用は難しいものですが、学部から大学院まで一貫の形の中でそういう人材を育成する体制を作り上げたいと思います」。学部卒業生の6割程が大学院に進学する電通大では、キャリア教育も学部だけでは完結せず、おのずと大学院を含めたものとなるわけだ。

グローバル化に関しては、「グローバル・アライアンス・ラボ」という、外国の大学と相互に研究室を設置するプロジェクトを文科省に申請した。
「例えば中国の上海交通大学やタイのキングモンクット工科大学ラカバン校、ロシアのモクスワ理工大学、それからフランス、ドイツなどの大学と、お互いに自分の大学の研究室を相手の大学に置いて、教員も学生も数カ月単位で行き来する形を考えています。学生は両方の教育を受けることになり、次のステップである、ジョイントディグリーにもつながっていくと考えています」

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