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コロナ禍は新卒就活をどう変えたか

オンライン就職への対応は、企業が大学より先行した《大卒のこれからの働くを考える Vol.1》

2022/02/25  タグ:  

21年卒に続き22年卒の就職活動・新卒採用もコロナ禍のもとで行われ、20年卒までとは様変わりした。さらに企業の事業構造や人材施策、個人の働き方やキャリア形成までが、アフターコロナにおいて大きく変わる兆しを見せている。
「コロナ禍の新卒就活」から見えてくる「アフターコロナのキャリア開発支援」について、株式会社リクルートの研究機関で「就職白書」「就職プロセス調査」などを発表する就職みらい研究所の増本全所長に聞いた。

聞き手:近藤賢(「キャリアの広場」編集部)

コロナ禍の新卒採用へのダメージは限定的

―――コロナ禍が新卒採用に及ぼした影響は、どのようなものだったのでしょうか。


増本全氏((株)リクルート 就職みらい研究所 所長)

増本:まず新卒求人倍率((株)リクルートWorks研究所)で見ると、22年卒は1.50で、売り手市場だったコロナ禍以前の20年卒(1.83)からかなり下がっています。
しかしこれは「底堅い」と思います。過去には、就職氷河期、リーマン不況、東日本大震災などで0.99(2000年卒)、1.23(2012年卒)といった数字もありました。そうした時期に新卒採用を停止や縮小したことがのちのち企業の成長を阻害した記憶や、近年の人手不足から、持続的な成長を考えて採用抑制には慎重になった企業が多かったということです。

―――業績不振から採用を停止・縮小した企業が大きな話題となりましたが、採用を維持できている企業も多いということでしょうか。
増本:例えば旅客運送が苦境にある運輸業でも物流関係は好調、飲食業でもテイクアウト業態で業績を伸ばしているところがあります。環境変化の中で事業が好転している企業が採用を拡大させており、底堅さを支える面もあるようです。
―――コロナ禍1年目の21年卒では、就職内定率がなかなか上がらなかった印象があります。
増本:採用プロセスの遅延は確かにありました。しかし、卒業時や前年12月1日時点では21年卒・22年卒ともに20年卒とほぼ変わりない就職内定率になっています。

((株)リクルート 就職みらい研究所 就職プロセス調査(2022年卒)「2021年12月1日時点 内定状況」)

大きく変化したのは採用の「手法」

―――コロナ禍の影響は、求人数や採用数に関しては限定的だったわけですね。採用選考の「手法」への影響のほうが大きかったのでしょうか。
増本:企業は、コロナ禍1年目の21年3月卒の新卒採用でオンライン選考を導入して手応えと課題をつかみ、22年3月卒ではオンライン・対面の使い分けをするに至っています。事業全般ではDXに慎重な企業であっても、こと採用に関しては、一定の期間内で一定の学生を確保する競争という面もあり、オンライン化の流れには抗えませんでした。入社後の定着や育成の問題も含め、中長期的にどんな影響が出るのかの懸念はありつつですが、オンライン化が急速に進展しました。
―――21年卒の採用で企業がつかんだ「手応え」「課題」とは?
増本:説明会などの情報提供や初期選考はオンラインで十分可能というのが「手応え」です。一方の「課題」は、最終的な見極めや動機付け、志望度の判断の難しさです。
―――それを踏まえて22年卒では、初期選考ではオンライン、最終選考に進むと対面というふうに、段階によって使い分けるようになったのですね。
増本:例えば最終選考は対面の割合が増加しましたが、この使い分けは『用途』によるものといったほうがより適切だと思います。ワンウェイならweb、インタラクティブなら対面という、『コミュニケーションの種類』による使い分けといってもいいでしょう。
学生のほうも「企業理解はオンラインで十分に可能」という手応えと、「企業が何をどの程度重視しているのか、つかみにくい」という課題感を持って、web・対面の使い分けに対応しました。
―――企業も学生も、採用・就職活動の現場で実践的にオンラインスキルを高めた感がありますね。

企業と学生から取り残された大学

―――一方、大学のDXは全般的に大きく遅れていたように見えます。コロナ禍への対応で、一部の工業系大学で早々に遠隔授業導入を決めたところもありましたが、多くの大学では学生へのPC支援も含め遠隔授業体制が整ったのは夏以降でした。極端に言えば大学は、企業からも学生からも取り残されたかのようです。
増本:大学は学生のことが見えなくなっていると感じます。例えば大学キャリアセンターの関係者からは「コロナ禍以降、学生の就活意欲が下がり、十分な活動ができないままに就活を終えていく」とよく聞くのですが、実は学生の行動量は減っていません。活動層と非活動層の二極化がより起こっている様子はうかがえますが、全体ではむしろ増えています。
―――大学側の感覚は実状とズレがあるようですね。急増したオンラインの活動はもともと見えにくい性質のものですし、キャリアセンターに足を運ぶ学生が減ったことで、「オンラインでは活動しています」といった学生からの情報が入りにくくなり、活動が低調に見えたのかもしれません。
増本:学生調査で見ると、コロナ禍前は減少傾向にあった説明会や面接参加の企業数が、21年卒以降は増えており、就活に費やす時間にも大きな変化はありません。また、費用は2年連続で減少しています。
―――それでいて卒業時の内定率も下がっていないのですから、就職活動の効率、もしくは「生産性」は向上していることになりますね。

((株)リクルート 就職みらい研究所 就職活動TOPIC(2022年卒)2021年9月7日)

「オンラインでもいい」から「オンラインがいい」への進展も

―――採用選考はオンラインでも可能、とはいえ、やはり対面の優位性は揺らがないのではないかと思いますが、いかがですか。
増本:対面に比べ得られる情報量が少なくコミュニケーションの質は低いものの、効率、費用、利便性のメリットが上回るというのがオンラインの位置づけでしたが、実施例が増えるにつれ、質的なメリットも実感されるようになってきました。
―――量的に増えているだけでなく、質的な進展も見せているのですね。
増本:例えば企業説明会での質疑です。対面では「それ、資料に書いてあるよね? ここで聴くことにどんな意味が?」という質問が1、2問あがるだけで予定調和的に終わることもままありますが、オンラインではチャット上の質疑応答が盛り上がるケースがよく見られます。「場」に制圧されずに「え、そんなこと踏み込んで聞いちゃうの?」みたいな質問も出る。オンラインという場の価値が表れています。
―――学生にしてみれば、「失敗した!」と思ったら途中で切断できるのもオンラインの価値でしょうか。だから思い切った質問が出せるということもありそうです。面接についてはどうでしょうか。
増本:対面の面接は就活生にとって「アウェイ」の環境でした。オンライン化によって「ホーム」の環境でコミュニケーションできるようになったのは大きな変化といえます。これは主に学生にとって、良いことではないかと思います。
―――もとより就活生は企業に対して弱い立場にありますが、オンライン就活ではその差が若干縮まるのかもしれませんね。
増本:企業が組織をフラットにする流れの中で、フラットなコミュニケーションのできるオンライン採用の価値が高まったという見方もできます。

コロナ禍以前とは比較ができない

―――この採用手法の変化に、大学キャリアセンターはどう対応していけばよいのでしょうか。
増本:まず、コロナ前の環境と比べすぎているのではないかと思います。
―――「早くコロナ前の体制に戻したい」とか、「コロナ前なら対面でアドバイスできたのに」とかですね。それによってますます対応を遅らせている大学も散見されます。
増本:例えば学内ガイダンスの参加者数をコロナ前と比較しても、あまりにも環境が違うので意味がないのではないでしょうか。その数をコロナ禍前の水準と比較するよりは、課題や支援対象者を明確にしていきながら、内容に応じて最適な手法を使い分けることなど前例にとらわれすぎずトライ&エラーをしていくのが良いと感じます。
―――対面へのこだわりから逃れて、現状でオンラインが最適な手法であればそれを選択するということでしょうか。そういった面でも、キャリアセンターのオンライン対応は急務といえそうです。
増本:オンラインという採用・就活手法の普及によって、学生は企業との接点やさまざまな情報にアクセスしやすくなり、より多様な動き方に変わってきています。
―――大学キャリアセンターも「学生と企業の接点を作る」など特定の機能に集中するのではなく、多様な動き方に変わっていくべきなのでしょうね。
増本:いかに多くの学生に届けるかから、支援すべき学生や時期を見極め、教職員連携しながらキャリアセンターの特性を活かした柔軟で細やかな支援が重要となると思います。
―――就活生の、活動層と非活動層への二極化が進んでいることに対してはどうでしょうか。
増本:従来は、就活解禁になれば街中にリクルートスーツが増えていく、キャンパスに行けばガイダンスの案内が出ている、サークルでもバイト先でも「合同説明会でこんな話が聞けた」「ESを出した」などの話が耳に入る、とまわりの活動が伝わってきましたが、そういう機会はコロナ禍でほぼ失われました。「自然と背中を押される」ことがなくなって意欲の高まらない学生をどう支援するかも、いま大学の課題だと思います。
―――オンライン化の遅れを取り戻しながらこうした課題に取り組む上で、「対面にこだわらない」「web・対面は用途に合わせて使い分ける」という企業の知恵は、大学にも大いに参考になりそうです。

***
Vol.2では、引き続き増本氏に聞き、キャリアセンターのみならず大学教育全体で取り組むべき「アフターコロナのキャリア開発支援」を考える。

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