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アフターコロナに求められるキャリア開発支援とは

自律性と変化対応力、解像度の高い情報が「学ぶ」と「働く」をつなぐ《大卒のこれからの働くを考える Vol.2》

2022/03/14  タグ:  

21年卒に続き22年卒の就職活動・新卒採用もコロナ禍のもとで行われ、20年卒までとは様変わりした。さらに企業の事業構造や人材施策、個人の働き方やキャリア形成までが、アフターコロナにおいて大きく変わる兆しを見せている。
Vol.1「コロナ禍は新卒就活をどう変えたか」では、増本全氏(株式会社リクルート 就職みらい研究所所長)へのインタビューをもとに、新卒採用の「手法」が大きく変わり、大学が企業に先行されたことを見てきた。Vol.2では、引き続き増本氏に聞きながら、コロナ禍によって企業の採用基準や求める人材像は変わったのか、大学のキャリア教育・キャリア開発支援にはどのような影響があるのかを検討したい。

聞き手:近藤賢(「キャリアの広場」編集部)

コロナ禍ではなく、産業の転換期が訪れたことによる変化

―――アフターコロナの働き方を前提に、企業の採用基準や方針は変わったのでしょうか。


増本全氏((株)リクルート 就職みらい研究所 所長)

増本:いまのところ大きな変化はありません。新卒採用の主流が職種を特定せず賃金も一律というポテンシャル重視の一括採用であることも、採用基準が人柄、熱意、伸びしろ、プラス自社との相性であることも、ほとんど変わりません。
―――あえて変化を探すならば?
増本:そうですね、「自律力」「変化対応力」「学び続ける力」などがキーワードとして挙がる機会は増えているかもしれません。しかし、これさえも目新しいワードではなく、長らく言われ続けてきたものです。

―――コロナ禍の打撃が大きかった業界でさえも、変化はないのですか。
増本:それはコロナ禍の影響というより、折りしもDXなど産業の転換期を迎えていることによるものと言えるでしょう。採用ポストの絞り込み、中途採用との使い分けなどの変化は、コロナ禍の打撃が大きかった業界に顕著に見られます。ですから例えばホテル業界や航空業界を志望していた学生は、なぜその業界なのか、自身が見直す必要に迫られました。
―――その見直しをすれば、学生はさまざまな価値に気づけるでしょうね。
増本:「語学力を生かしたい」のか「ホスピタリティに関心がある」のかと、自身の目的意識などを考えていくと、ホテル・航空業界へという気持ちは憧れだったかもと選社軸を自覚するかもしれません。他の業界でもやりたいことができると、実現する場としての企業の多様さに気づくこともあると思います。

ジョブ型雇用シフトは当分起こらない

―――近年注目されているジョブ型雇用についてはいかがですか。
増本:ビッグワードではありますが、すぐには大きくは進まないと見ています。
―――新卒はさておき中途採用ではジョブ型雇用が増えるとの見方もあるようですが。
増本:私は、中途採用も含め短期での影響は限定的だと考えています。ジョブ型の導入は雇用慣行や人事の仕組そのものを変えることになるため、影響も範囲も広く容易ではなく、現行のやり方でも十分進化できると考える企業もあるかと思います。また、中途採用市場だからジョブ型雇用でマッチする人材が豊富にいるかというとそんな安易な話でもないからです。
実際に企業側で動きが見られるのは、「ジョブ型」よりも「人材要件を明確にした採用」で、これは新卒においても増える兆しがあります。データサイエンスなど、専門職や理系の先端技術領域などで、職務内容や給与などの雇用条件を明確にした採用を行う動きが若干見られます。

―――図の〈理系・技術系〉〈専門職種〉のうちのさらに一部という、「学ぶ」と「働く」とがつながりやすい限られた領域の動きのように思えます。
増本:そのとおりです。新卒採用の大勢(図の〈文系〉)がポテンシャル採用であることは変わりません。それでもこのタイプの採用に注目するのは、企業が学生に提供できる情報の「解像度」が格段に高いからです。
―――どんなスキルを使ってどんな働き方でどんな職務を行うのか、企業内でのキャリアパスは、といった詳細な情報ですね。
増本:企業としては、新卒採用において、コミュニケーション力などの「基礎力」や主体性などの「態度」を求めるような従来の採用手法のみを続けることは、人材戦略上不利になっていくため、「人材要件を明確にした採用」の影響が新卒採用にも少しずつ及んでくると予測できます。

解像度の高い「働く」の情報から、「学ぶ」の柔軟性へ

―――「人材要件を明確にした採用」の、学生側から見た意味はどのようなものでしょうか。
増本:解像度の高い情報を得ることで、学生は自分に足りないものが判明して、それを補うべく「学ぶ目的の再設定」が可能になります。まさに新・社会人基礎力の3要素「何を学ぶか・どのように学ぶか・どう活躍するか」を自律的に設定できるわけです。
「人材要件を明確にした採用」が〈文系〉領域にも広がり、どんな経験や専門性を求めているか、活かせるのかがより解像度高く明示されるようになれば、果たしてその採用に応募できるのか、学生がある程度判断できるようになります。そのために目標を定めて学んだり、就職活動をしたり、さらには大学選びの段階から意識する、自律的な学生を増やす働きもあるでしょう。

―――そうなると、こうした変化の兆しに大学がほとんど対応できていない実状が問題ではないでしょうか。
増本:確かに日本の大学は、学ぶ目的から逆算してカリキュラムを選ぶところまで行っていません。
―――総じて日本の大学の学びは、柔軟性が不足しているといえそうです。入学時に選んだ学部や専攻を変えることは難しく、他学科の講義を受けることさえ容易ではありません。
大学を選ぶ18歳の時点で、働くことの価値を何に見出すかを決定し、そこから逆算して何をどこの大学で学ぶかを定めていれば、「学びの柔軟性」はさほど必要ではないかもしれません。しかし高校卒業時にそこまで求めるのは酷ですし、そもそもキャリアに関しては、外部環境も自身の考えも生涯を通じて変化し続けるものであり、それに応じて適宜開発していくのが本来のキャリア開発であり、その支援だろうと思います。

増本:日本の大学の現状は、必要となる要件が明らかになっていない、把握できていないことも大きな要因。大学の学びに柔軟性があったとしても、「何を学ぶか」が決まらないと機能しないということです。ですからまず企業の側に、解像度の高い情報を開示することが求められます。
―――それを受けて大学は、学びの「解像度」と「柔軟性」を高める方向に変わることが望ましいのでしょう。「学びの再設定」を想定したカリキュラム、「働く」のリアリティから逆算した授業設計など、「学び」の改革そのものが、アフターコロナにふさわしいキャリア開発支援となっていくはずです。

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