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[番外編]「内定を獲る力」支援から「学生のキャリア自立・自律」支援へ

連載を振り返る

2016/01/08  タグ:  

26大学DATA

〔設置主体別〕
 国立:12
 公立:1
 私立13
〔地域別〕
 北海道・東北:3
 関東:9
 中部:3
 関西:4
 中四国:3
 九州:4

角方正幸(「就業力の広場」責任者/____
リアセックキャリア総合研究所所長)

このページでは、大学教育の重要な課題となっている就業力育成について、リクルート「カレッジマネジメント」誌と共同で各大学に取材し、産業界との連携や地元自治体との協働などによって学生の就業力を高めることに成功している取り組み事例を紹介してきた。
今回は、「カレッジマネジメント」誌の連載がテーマを一新するに当たり、2011年9月のVol.1から約4年間の連載を振り返り、見えてきた事柄をまとめた。

「就業力」への注目の始まり

2010年度、文部科学省は大学設置基準を改正し、キャリア教育を正課の授業として取り組むよう、各大学で教育課程等の見直しが始まった。この改正に盛り込まれた「社会的及び職業的自立を図るために必要な能力」が「就業力」である。

【大学設置基準の改正】2010年4月
大学は、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒尊後自らの能力を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えるものとする。

文部科学省はこの改正を推進する事業を次々と展開した。2010年度には「大学生の就業力育成支援事業」が2014年度までの5カ年を予定して開始。これが2011年11月の行政刷新会議の「事業仕分け(再仕分け)」により、2011年度限りで廃止されると、それを引き継ぐような形で2012年度〜2014年度(3カ年)「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」が実施された。
より早い時期からこの課題に取り組んできた先駆的な大学もあるが、多くは、2010年の大学設置基準改正、そして文部科学省の関連施策を契機として、就業力育成の取り組みを活発化させてきた。

見えてきた3つのポイント

2011年9月掲載のVol.1から2015年11月掲載のVol.26まで、26大学の学長にインタビュー取材を行った。各回の取材は、概ね下記のような流れで行ってきた。①問題意識や改革の背景②具体的な取り組み内容③問題点④今後の課題。

ポイント1:課題は「自立できない学生」

① 問題意識や改革の背景
学生の就業力についてどのような問題意識があったか、それに対して、就業力育成を含む教学改革の方針をどのように定めたか。あるいは、現在の大学改革の中に就業力の育成をどう位置づけているかを尋ねている。
大学により、学生の基礎学力、開学からの歴史、立地地域の条件等は異なり、それを反映して危機感のありようもそれぞれであるが、共通して触れられることが多かったのは、「自立しない学生の増加」である。「おとなしい」「もう少し元気があってもいい」「言われたことを素直に聞き、自己主張が弱い」など、表現は様々であった。この背景には、少子化と進学率の上昇による学生の質の変化があると思われる。全入時代=ユニバーサルアクセスの時代の大学では、自立できていない・社会的に未熟な学生の割合が、従来になく高まっているということだ。「自分が学生だった頃とは違う」といった声も、幅広い世代から聞かれた。

大学設置基準の改正や「就業力」事業等への取り組みが改革のきっかけになった例は多かったが、“就業力”という言葉そのものに対しては、否定的な意見が多く見られた。初期には、「本学の就職率は十分に高いので、就業力についての問題はない」というふうに「就業力=就職率」と捉える傾向もあった。また、「産業界のニーズ〜」事業開始以降は、産業界の要請に沿って企業の即戦力となる人材を“大学で”育成することへの違和感も、しばしば語られた。むしろ産業界とは異なる長期的な視野で総合的な人間教育にあたるのが大学教育の使命である、というスタンスだ。
いずれにせよ、就業力育成=「社会的及び職業的自立を図るために必要な能力」の育成、と捉える学長は少数派だった。この言葉は、この(本来の)意味では定着しなかったように思える。

ポイント2:取り組みのキーワードは「連携」

②具体的な取り組み内容
取材の中で多く語られたのは、協働教育、体験学習、PBL、アクティブ・ラーニング等、教育方法の見直しに関するキーワードである。しかし、従来の授業科目、授業方法を単に見直すだけではなく、大学教員の守備範囲を超えるチャレンジとして、他者、外部機関・外部専門家との連携、協力を推進する取り組みが多いため、教育方法に加えて「連携」が重要なキーワードとなる。その例をいくつか挙げておこう。

《事例》成城大学(Vol.2)

幼稚園から大学院までの一貫性を生かして学園内各校と連携、大学生が高校生に「大学で何を学ぶか」を伝えるプロジェクト等を実施。
キャリア教育は、特任准教授、各学部の教授、「就業力育成支援室」の職員が協働して当たる。プログラムの評価委員は、地元自治体、産業界、卒業生等外部の識者を中心に構成される。

《事例》鹿児島国際大学(Vol.3)

「人材の地産地消」を目指し、鹿児島相互信用金庫との産学連携で、「3日間社長のカバン持ちインターンシップ」「海外(中国・大連)インターンシップ」を実現。これらのプロトタイプから進化したキャリア支援を通常の業務として定着させることを視野に入れて、早い段階から教職協働で推進。
また、演習を公開してその進め方の情報を共有し、教員がお互いに学びあってレベルアップを図る計画を持つ。広義に「教員同士の連携」とも言えるこの動きにも注目したい。

《事例》嘉悦大学(Vo.13)

大学事務局、図書館、PCヘルプデスク等、学内でアルバイト機会を多数提供。学部生のSA(スチューデントアシスタント)、大学院生のTA(ティーチングアシスタント)は、「働ける大学」の一環であると同時に、学生によるFDとしてもよく機能している。

《事例》大阪経済大学(Vol.24)

産業界との密接な連携で、毎年400名以上のインターンシップ生の受け入れ先約200社を安定的に確保。進路支援部の職員がゼミでガイダンスを行う等、ゼミ所属率の高さ(約97%)を生かした教職協働も行われている。

まとめると、①社会(企業、卒業生、地域等)、②教員、③職員という3つの連携が鍵となる(図表1)。

図表1 鍵となる3つの連携
fig1
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ポイント3:グローバル化社会への対応が今後の課題

③問題点
取り組みにあたっての困難や問題点、それをどのように乗り越えてきたかを尋ねてみると、問題点の多くは、計画段階よりも実施段階にあることが分かる。一部の教員によるトライアルや学科・学部単位の取り組みに終わらせず、全学的な改革へと拡大するためには、一部の教員(特任教員)から専任教員の巻き込み、教職協働、手間と責任の所在の明確化等の問題解決が必要である。それぞれの工夫と努力で課題を解決してきた事例が多かったが、まだ道半ばであるという声もまた多かった。

《事例》島根大学(Vol.6)

学長が自らインターンシップ受け入れ先企業の開拓等の「手間」を掛け、全学的事業として「責任」をとることを明言。

《事例》電気通信大学(Vol.20)

学外(社会人)講師、産業界OBのティーチングアシスタントがキャリア教育を担っている現状で、今後、専任教員・専門科目教育とどう関わりを持たせるが課題。

④今後の課題
今後の課題・方向性として多くの学長があげたのが、グローバル化社会への対応である。基本は語学教育の強化・見直しだが、それにより輩出するグローバル人材のイメージは、「グローバル企業に就職して海外で働く」という比較的分かりやすい従来イメージから、「日本国内で働いていても、地域や職場で外国人と接するのが当たり前」という時代の環境に対応する人材イメージまで、各大学の特性に応じて様々であった。

改革の継続性についても多くの意見が聞かれた。「産業界のニーズ〜」事業等、文部科学省GP事業は多くが5年程度の期限付きで予算のつく事業である。事業の終了後に「補助金の切れ目が改革の切れ目」としないことが課題となる。大学の独自予算をあてる、通常の予算で運営できるカリキュラムに組み込む、企業等の連携先にメリットを示すことで継続的な支援を得る等、各大学とも知恵を絞っている。

また、「学生を大学の主役に」という趣旨の発言が複数の学長からあったことも印象深い。例えば三重大学の内田淳正学長(Vol.19)は、「大学は本来、教員が教え育てる教育の場ではなく、学生が学び問う学問の場」と言い、変わりにくい教員・職員の意識変革にも学生のパワーに期待するところ大と述べている。

 「就職対策」から「正課内外を通じた人材育成」へ

大学における就業力育成の必要性が強く意識された背景には、2000年以降の就職環境の厳しさがあった。特に「大学生の就業力育成支援事業」が始まった2010年は、リーマンショックの2008年に就職活動をした学生の卒業年であったことから、就職(内定)率向上を急務と感じていた大学にとって「就業力育成」は、就職対策の意味合いが強い取り組みとしてスタートした。
2013年頃からは、景気の回復とともに就職環境が好転、加えて、いっそうの少子化=若年者人口の減少が顕著になり、新卒人材の希少価値は増大している。一方で、産業経済の変化はますます速くなり、グローバル化も同時に進んでいる。これらの状況から、内定を獲得する能力の育成・支援よりも、学生のキャリアの自立・自律、そしてそのための能力開発と大学教育が注目されるようになってきた(例えば、21世紀型能力の開発等)。

実はこれは、大学設置基準の改正の意図に近づく動きのように思える。即ち、3つのポリシー(AP、CP、DP)を明確にし、正課内・正課外の活動を通じて学生のキャリア自律(=社会的及び職業的自立を図るために必要な能力)を育成するのが大学教育の果たすべき役割である(図表2)。

図表2 大学生活と就業力育成の全体図
fig2

新たなテーマは「キャリア自律」(大学と社会をつなぐ)

「カレッジマネジメント」誌連載および当ページは、同じ課題に取り組む大学に有益な情報を提供するという目的は変えないままに、テーマを「就業力を育成する」から「キャリア自律を育成する」に一新する。つまり、就職支援的なものにとどまらず、学生のキャリア自律を育成するための各種の取り組み、大学教育改革を取り上げていく趣旨である。正課内活動では、初年次教育や授業内容、授業方法、学習環境の改革事例、正課外活動としてはインターンシップや留学等「隠れたカリキュラム」といわれる活動に着目したい。
環境の変化とともに「就業力育成」から「キャリア自律」へ、学長の意識が強まっていることを折々に感じた4年間でもあった。今後、大学と社会をつなぐ「キャリア自律」に各大学が取り組んでいる事例を積極的に紹介していきたい。

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